君の名を呼ぶ (ページ32)

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　北斗さんに頼まれたコーヒーのおかわりを淹れる為にキッチンへ戻ると、メイド長が手際よく調理器具を片付けていた。

「A？」

　さっとコーヒーサーバーからポットを抜き取った私に、メイド長が声をかける。

「どうかしたかい？顔色が悪いね？」
「いえ、大丈夫です」
「……無理するんじゃないよ？」
「はい」

　それ以上は何も言わないメイド長に軽く会釈をしてキッチンを出ると、グッと気合いを入れるようにお腹に力を入れた。
　変なことを考えないように、悪い思考に引っ張られないように。

「お待たせ致しました」

　ダイニングへ戻った第一声は、何とか自分でも一先ず合格点を出せるような声色だったと思う。コーヒーを注いでいる間の北斗さんの視線も柔らかくて、

「ありがと」

そう言って下さった北斗さんの声の温度に、私もホッとして何とか小さく笑顔を見せる。ふっと空気が軽くなった気がしていると、

「俺も貰っていい？」

とジェシーさんがカップを滑らせて、そこへコーヒーを注いだ。

「Aちゃん、あとでこっちの部屋来てもらっていい？」

　コーヒーを注ぎ終えたカップをジェシーさんへ差し出すと、ありがと、と微笑む表情はいつもの明るいジェシーさん。

「俺、今日もう一泊お泊まりだから、着替え洗濯お願いしたいんだけど」

　下心なんてないと言わんばかりに爽やかに微笑んで、北斗さんの前でそう言われると、ただのメイドの私には断る理由などない。

「承知致しました、では食事の後にお部屋にうかがいます」
「ゴメンね、ありがとう」

　ジェシーさんのその言葉に、北斗さんも何も言えなくて、

「パンナコッタ、美ん味っ！北斗ん家サイコー！」

と、ジェシーさんはいつも通り豪快に笑った。