君の名を呼ぶ (ページ4)

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「……いただきます」

　ここで躊躇していたら北斗さんはまた私に口を開けろと言い出しそうで、私は両手でそれを受け取ると、パクリと一口、零さないようにクラッカーを齧る。サクッとした食感に少しの塩気がジャムの甘さを引き立たせていて、ふわりと口内にいちごの香りが広がった。

「美味しい……」
「ふふ、でしょ？」

　思わず呟いた私に満足そうな北斗さんは、

「いつもこういうの用意してくれるの、みんなに感謝してるよ」

と柔らかく微笑んだ。

　北斗さん……。

　胸がきゅんと鳴った気がして、慌てて残りのクラッカーを口に押し込んで、バタバタと立ち上がる。その様子を見た北斗さんが吹き出しそうなのを堪えながら、

「なぁに？どうしたの？」

と私を見上げるから、

「何でもありません……っていうかあの、私お邪魔になりますのでこれで……」

と、ぺこりと頭を下げた。

「あー、Aさん」

　慌てて部屋を出ようとする私を北斗さんが呼び止めて、ドアノブを握ったまま北斗さんを振り返ると、

「……ありがとね、」

と北斗さんは笑って言った。さっきよりも距離をとったっていうのにまた私の胸がきゅうんと音を立てたのが自分でわかって、北斗さんの視線から逃げるようにガバッと頭を下げた。

「トレーは明日の朝、回収に伺いますので」

　失礼します、と顔を上げた私に、

「おやすみ」

と小さく手を振った北斗さんに、もうこれ以上は無理、と私は急いで部屋を飛び出した。