君の名を呼ぶ (ページ16)

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「失礼致します。紅茶お持ち致しました」
「あ、ありがとう」
「こちらでよろしいですか？」
「うん、もうジェシーにも淹れてやって」
「かしこまりました」

　ソファの前のテーブルにトレーを置いて、その傍らに腰を落とす。丁寧にティーポットの蓋を押さえながらお湯を注ぐAさんの仕草を見つめていると、

「んあー、いい香り」

ジェシーはそう言って、大型犬みたく鼻をクンクン鳴らしている。その隣で、Aさんがクスリと微笑んで、紅茶を蒸らしながら軽くティーポットを揺らす手を見つめていると、夕べの紅茶の香りまで香ってくる気がした。今日は、ローズヒップ。夕べのは……カモミールだったかな。

「そう言えば北斗、この間告白されたって言ってたの、どうなったの？」

　不意に顔を上げて俺の方を向いたジェシーが、唐突にそんなことを言い出して、はぁ？と思わず変な声が出た。

「ジェス、おま……何言ってんの？」
「言ってたじゃん、あの、京本物産の一人っ子？だっけ？」
「それを言うなら一人娘、な」
「それ、その子！めっちゃ綺麗な子だって、俺の友達も言ってた」

　ジェシーの言葉に、Aさんが紅茶を淹れる手が震えたのか、カチャンと小さくカップとティーポットが触れた音がした。

「だからぁ、そういうんじゃないって……」
「北斗ん家となら、良家同士でお似合いだと思うけど」
「そういうのは、昔の話だから。家柄とかナントカは」

　確かに、あれは告白……だったのかな。
　あなたの事をもっと知りたいと言われて、唐突に情熱的な言葉に、上手な一言も、決定的な一言も言えなかった。
　連絡してもいいですか？と控えめに番号を聞かれれば断る理由もすぐには思いつかなくて、それから時々、ご機嫌伺いのような控え目なメッセージが届いたりして。それをスルー出来る程の度胸もない俺は、当たり障りないメッセージのやり取りを続けている。