魂のたべもの (ページ9)

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それから十分ほどでやって来たタクシーに乗ってジェシーは行ってしまって、店の中には俺とAちゃんの二人きりになった。店内がシンと静まり返ったのは賑やかなジェシーがいなくなったからだけじゃなくて。

「みんな大変だね、忙しくて」

と呟いたAちゃんが寂しそうにジェシーを見送る視線は、俺をいつも悲しくさせる。俺がこうやってAちゃんを見ていることは、きっと彼女の視界には入っていない。Aちゃんの視線はいつもジェシーに向いていて、こっちを見ることなんてないから。

「慎太郎くんは？一緒に行かなくてよかったの？」
「うん、今日はこの後みんなバラバラだから。俺は夜アッチに帰れたらいいんよ」
「そっか」

　ランチタイムが終わった、シンとした店内。カオルさんは午後の仕込みを終えるといつも休憩に出てしまうから、恐らく今ココには俺達二人きり。ドクドクといつもより胸の鼓動が派手に脈打つのは、さっきまでいたジェシーに感化されたからなのか、それとも。

｢これ、サービス｣

　不意にAちゃんがそう言って、俺の手元にアイスコーヒーの入ったグラスを置いてくれた。

「お、ありがと」
「私も休憩しよ」

　Aちゃんもコーヒーが注がれたグラスを手にカウンターを出ると、トコトコと俺のそばまでやってきて、隣の椅子へ腰掛けた。いつもの、定位置。Aちゃんがそれだけ近くに来る時はいつも……恋の話をする時だ。

「びっくりしちゃった、ジェシーくん来るとは思わなかったから」

　照れ臭そうに、でも嬉しそうに呟いたAちゃんは、前髪を触りながら言った。もうジェシーは仕事に戻ってここにはいないのに、ジェシーがさっきまで座っていた椅子に腰掛けながら、ジェシーを思い出しながら、いなくなってしまったジェシーの為に前髪を整える。

「慎太郎くんが誘ってくれた……の？」
「いや、ジェシーこの後、樹と一緒に収録だって言ってたから、声はかけてない」
「そう、なんだ」
「空き時間長いからさ、俺がコーヒー飲んでくるって言ったんだ。だからジェシーもココだって思ったんじゃね？撮影この近くだったし」

　俺の言葉に、Aちゃんはそれをきっと彼女の都合の良いように解釈したに違いない。俯き加減だけど、そのツヤツヤ煌めく唇の端は、緩やかに上を向いていた。