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店に着くと、俺の予想とは違って、お店はもう真っ暗だった。ドアには『CLOSE』のプレートが下げられていて、もう中には人の気配は感じられそうになかった。バイクのエンジンを切ってヘルメットを外す。左のハンドルにそれを引っ掛けると、未練がましくドアのガラス部分から店内を覗き込んだ。
「……いない、か」
呟いてから、ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出す。22:04。まだ、ギリセーフな時間かな。
Aちゃんの番号を呼び出してコールしようとした時、カタン、と何かの音が聞こえた気がした。
何だかずっと嫌な感じがしていたのを刺激された気がして、もう一度ガラス窓から店内を覗き込もうとドアに手を置くと、ゆる、とドアが動いた。
「え、開いてる、?」
ドアノブに手をかけるとゆっくりドアが開いて、次の瞬間、鼻を刺すような香りが俺の身体を駆け巡った。
この匂いは。
「……Aちゃん、?」
顔だけを覗き込ませて呼んだけど、返事はない。
店内も奥のキッチンも真っ暗で、でも開いているドアと充満する香り。とてもじゃないけど、このままここを離れることなんでできなかった。
「こんばんはー、慎太郎でーす」
誰もいない?って聞きながらそっと身体をドアの内側へ滑り込ませた。ドアをゆっくりと閉めてからなるべく音を立てないように鍵をかけると、ふぅ、と一つ息を吐いた。
月明かりが差し込んで、真っ暗なはずの店内は少し明るい気がした。
よし、大丈夫。
「Aちゃん?いるんでしょ?」
張りのある声を出して一歩踏み出す。今度は意識してカツンと踵を鳴らせば、どこからかコツンと小さな音が聞こえた。
「どこ!?」
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作者名:ubisi | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/ubisi_0122
作成日時:2023年7月27日 19時