10 ページ29
ジェシーに連れられたのは、ハイエンドのシティホテルだった。
慣れた様子でロビーでカードキーを受け取ったジェシーは、スマートな仕草でエレベーターへ私をエスコートしてくれた。
「どうぞ」
ジェシーがロックを解除したドアを開けて、私は恐る恐る部屋に足を踏み入れる。部屋の奥の大きな窓ガラスの向こうには、キラキラ光る街並みが見下ろせた。
「綺麗……」
窓に手をついてそこから階下を見下ろす私の様子を見ながらジャケット脱いだジェシーは、それをソファの背に掛けながら笑った。
「気に入った？」
そう言って私の後ろに立ったジェシーは、私の手の横にその大きな左手をついて同じように窓から外を見下ろした。
「……ゴメンね、せっかく素敵なお部屋なのに」
「なぁんで？無駄にならなくてよかったじゃん」
私の言葉にクスリと笑ったジェシーは、
「一人で来る方が、よっぽど残念」
そう言って、そっと私の後ろから離れた。それで、すぅっと、背中が寒くなる。
「ねぇA、飲み直す？」
備え付けの冷蔵庫の前にしゃがみ込んでドアを開けながら振り向いたジェシーは、
「ワイン、入れて貰ってたの忘れてた」
と、小ぶりのワインボトルを取り出した。
「ハーフボトル？」
「うん」
慣れた手つきでコルクを抜いたジェシーは、伏せられたワイングラスを手に取ると、そこにゆっくりとワインを注いだ。そのサイズ感に、今日ここに一緒に来るはずだった人があまりお酒が強く無いんだろうことに気がついて、
「どうぞ」
と、もう一度窓際までやって来たジェシーが差し出したグラスを受け取ると、
「ありがと、」
と、出来る限りの笑顔を作って見せた。ジェシーは眉を少しだけ上げてから、手にしていたグラスを私のグラスに軽く合わせると、
「Aとだと、こんなん秒で無くなっちゃうね」
と、笑ってグラスに口を付けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 567人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ubisi
| 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/ubisi_0122
作成日時：2023年6月6日 1時
