シンデレラグレイ (ページ27)

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ジェシーを振り切ろうと踵を返した私を逃がさないように、私の手首を掴んだジェシーの手に力が込められる。

「待って、A」
「……離して、」
「だって、Aのこと離したってもう手遅れ」
「ジェシー……？」

　少し困ったように笑ったジェシーは、

「もう……お客さん帰っちゃったし」

と、ペロッと舌を出した。
　私のせいだ。私を追いかけて来てくれたりするから、ジェシーの大事なお客様が帰ってしまったんだ。

「……ホント、ごめん」

　結果的にジェシーのお仕事の邪魔をしてしまった事に、罪悪感と、それとは少し別の何かが顔を出す。こんな時まで自分本位な気持ちを抑えきれないくせに、さっきまで元カレでジェシーを忘れようとしていた自分が滑稽だ。

「……ゴメン、変なこと言って。これじゃ、Aのせいにしてるみたいじゃんね」

　何も言えずに俯いているだけの私に、ジェシーは困ったように眉を下げた。

「迷惑だったよね。あれから連絡ないし……」
「ジェシー、」
「別れ際だって……あんなだったし」

　悲しそうに笑うジェシーの表情に胸が痛む。
　どうしてジェシーがそんな顔するの？
　リピーターになるはずだったお客さんが減っちゃったから？それとも……？
　こんな時まで自分に都合のいい理由を探そうとしてしまう自分が惨めで笑ってしまう。

「……A？」

　情けなくて笑ってしまった私を、ジェシーは心配そうに呼んだ。

「大丈夫？」
「……うん、大丈夫だよ」
「そっか」

　ジェシーの優しさが、胸に滲みて痛い。私はジェシーにとってたくさんいるお客様の内の一人。お仕事だから優しくされるのは当たり前で、そうやって、勘違いしたバカな女がジェシーにのめり込んでいけば、それは結局ジェシーのお仕事が捗るだけ。それだけ。