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「ど……して、？」
彼の姿が見えなくなってから、暗闇の中の沈黙。ようやく絞り出した言葉がそんなつまらない言葉だったけれど、ジェシーは少しだけ表情を柔らかく崩して言った。
「俺、さっきの店にいたんだ。リザーブになってた席に入ってきたの、Aに似てるなって思ったら……Aだった」
「……そう、」
偶然にも、さっきのお店にジェシーがいた。雰囲気のいいお洒落なお店に、ジェシーが一人なはずがない。『お仕事』だ。わかっていても、やっぱり胸が痛む。
カジュアルすぎる服装では尻込みしてしまいそうなレストランだから、今日のジェシーはライトグレーのスーツ。夜の暗闇ではわからなかったけど、ジェシーのスーツは細いトリプルラインのチェック柄で、それが確認出来るくらいにジェシーがすぐ近くにいることに、胸が高鳴った。顔を上げると、あの夜のジェシーを思い出して、無意識に彼の唇を見つめていた。
お腹の奥が、ずくりと疼く。
「助けてくれてありがとう。早くお店に戻って」
ジェシーから目を逸らしてそう言えば、
「A……」
と、弱々しい声でジェシーが私を呼んだ。それだって、何かの手立てなんだと自分に言い聞かせる。ジェシーは、これが『お仕事』なんだよって。女の人に優しくして、楽しい時間を過ごして、幸せな気持ちにしてあげる。一緒にいるその時だけは、私だけのジェシーになってくれる。でも、それ以外はジェシーは他の誰かのもの。それは結局、本当のジェシーは誰のものでも無いということ。誰のものにもならない。
「お仕事、邪魔してゴメンなさい」
距離を取るようにそう言えば、ジェシーは私の手首を優しく掴んだ。
「ねぇA、聞いて」
「私、もう行くね」
「A……！！」
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作者名：ubisi
| 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/ubisi_0122
作成日時：2023年6月6日 1時
