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全くもって、気が付かなかった。
どんだけ、深く眠っていたんだ。
いや、あれは先生が悪い。
だって、あんな力一杯に俺の鳩尾を殴るから。
今も痛いし、うん。
と、1人悶々としていると、今度は中尾から声を掛けられた。
「けど、びっくりした」
「……?何が?」
「え?先生と黎が、兄弟だったなんて」
「……ヒェッ」
何故、それを知っている。
先生が言ったのか?否、態々言わないだろう。
なら、一体何時知ったんだ。
中尾の口から、誰にも言っていない事実が紡がれ、慌てふためいている俺。
脳内パニック状態で、変な声まで漏れた。
俺の考えが分かったのか、中尾が言う。
「会話……聞こえてたんだ」
「…………ナルホド」
此処に居た中尾には、全て筒抜けであった事がよく分かった。
まぁ、中尾は生きていたし、それでいいか。
中尾とは、挨拶や軽く話す位はした事はあるが、ガッツリと話をしたのは初めてだった。
話して解る、中尾はとても良い奴だ。
恋人である水越の事も、とても大切にしているみたいだ。
俺達は一応人質、中尾は死人か。という立場ではあるが、そんな事も忘れ、先生が戻ってくるまでの間、たわいも無い話に花を咲かせていた。
中尾と話し始めて数十分が経った頃、廊下に続く扉が開いた。
そこには、おにぎりが入っているであろう袋を持った、ちょっと楽しそうな先生が居た。
「おかえり、先生。何か、楽しい事でもあった?ちょっとニヤけてる」
「ん?そうか?ほら、おにぎり。先に好きなの選べ」
そう言いながら、俺達に袋を差し出す。
俺達は、適当におにぎりを選んだ。
残りのおにぎりが入っている袋を先生に預け、もう少し中尾と話そうと思ったその時、先生の声が届いた。
「さて、黎はそろそろ上に戻るぞ」
「え?何で?」
「何でって...。美術準備室に居るはずのお前の姿が急に見えなくなったら、準備室に来た奴らに怪しまれるだろ」
「あ……、そっか…」
正論を言われ、名残惜しいが中尾と別れ美術準備室に戻った。
特にやる事も無い為、モニター前の椅子に腰掛ける。
先生に、お前がそこ座ったら作業できない。と、言われたがとりあえず無視しておいた。
モニターを見れば、クラスメイト達は身を寄せ合って、床に雑魚寝していた。
やはり、雑魚寝はキツイだろう。
数分に一度は、誰かしら目を覚ましている。
そんな光景を、どのくらいの時間だろうか、襲い来る睡魔と戦いながら眺めていると、先生が言葉を紡いだ。
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作者名:字の人 | 作成日時:2022年6月15日 0時