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「救急箱持ってくるから、そこ座ってろ」
「……あーい」
俺は、先生の後を追うように、のそのそと教室を出て美術室に来た。
席を立った際、甲斐に…わりぃ。と、言われたが、割と痛かったから、……痛いなぁ。と、恨みを込めてゆっくりとそう言っておいた。
美術室の椅子に座り、先生が白い袋を引きずっている姿を眺めていると、廊下から足音が聞こえた。
そちらの方に目を向けると、足音の正体は茅野だった。
「どうして私なんですか」
未だに納得のいっていない茅野が、先生に回答を求めた。
ただ学級委員長だからと言う理由だけでは、不満だろう。
「茅野は、景山と友達だったよな」
茅野の方を見ず、先生は聞いた。
確かに俺の知る限り、茅野と景山は仲の良い友達だった。
だが、茅野からは俺の思っていたものとは違う言葉が告げられた。
「私なんか……友達じゃありません。自 殺するちょっと前に手紙を貰って…そこにも書いてありました」
「………何で…手紙だったんだろうな…」
先生は作業の手を止め、考えるようにボソッと呟いた。
しかし、直ぐに表情を緩め先生は告げる。
「いや……今時珍しいなぁと思って………兎に角、他の誰でもない。お前が答えるんだ」
何か言いたそうな茅野を放って、先生は美術準備室の中に入り扉を閉めた。
茅野は俯き、立ち尽くしていた。
「なぁ、茅野」
俺はなんとなく、茅野に声を掛けた。
茅野は、俯いていた顔を上げ俺の方を見た。
「……あ、佐藤君…。腕…大丈夫…？」
「ん、大丈夫だよ。茅野…俺がいた事…忘れてない？」
「…え？えっ、いや、忘れてないよ！」
「本当かぁ？さっき、あって言ったぞ」
「いや、あの、違っ！」
「んはは笑。嘘だよ、からかって悪い。…ほら、そろそろ教室戻りな？」
「…うん」
軽いやり取りをし、茅野が去る後ろ姿を見届ける。
茅野が美術室を出たタイミングで、先生は救急箱を持って準備室から出てきた。
「何、気でも狂ったの？」
「何でだよ…。茅野にね、あんな顔似合わんなぁって思ってさ」
「…そうか。さ、腕出せ。折れてはないと思うが、まだ痛むだろ」
「……痛い…」
忘れたくても忘れることが出来ない、未だに痛む左腕。
……見たくない。早く。先生に急かされ、恐る恐る袖を捲った。
「う…わぁ、まじで見たくなかった」
「こらまた痛々しいねぇ」
見える左腕には、赤黒い痣が広がっていた。
先生は手際良く、手当をする。
お礼を言うと、頭を撫でられた。
…はぁ、腕痛い。
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作者名：字の人 | 作成日時：2022年6月15日 0時
