奪いに来てよ、実弥。

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優くんとの結婚が決まってから、
お互いの親への挨拶、
2人で住む新居のアパート探しなど
トントン拍子に事は進んでいった。





『…ふう、こんなものかな。』

見渡すと
部屋の中は至る所にダンボールが。




私がまだ学生ということもあり、
結婚式はおいおいやるとして
ひとまず入籍だけ先にすることになった。





それが、明日である。





この部屋で過ごすのは今夜で最後。
明日の朝、引越し業者が来て荷物の引き取り。
そして優くんとともに市役所に行って婚姻届を提出。


帰るのはこの部屋ではなく
新たに借りた2人で住むための少し広めのアパート。






ふと、目に入ったのは机上の婚姻届。
名前はもう書いてある。
もちろん優くんのきれいな字も、
証人としてお願いした
彼の父と私の父の名前も。


あとは、私の判を押すだけ。





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なぜかはわからない。

どうしても、どうしても押すことが出来ずにいた。

押そうとすると、
僅かに頭の中で拒否反応が起こるのだ。






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きっとその理由に、私は気付いている。



ー君を幸せにしたい。



頭の中で再生される優くんの言葉。

そうだよ、あの人は自分を必ず幸せにしてくれる。
わかってるよ。



…なのに。


こんなときでさえ
“彼”のことが頭に浮かんでしまう。






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ーピンポーン

滅多に鳴らないインターフォン。
この時間だ
優くんかな、なんて思いながらドアに近付く。





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確認もせずに、開けてしまったのが間違いだった。







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