ありがとう、さよなら ページ10
side那智
大事な人のためなら、
自分の気持ちなんか簡単に抑えんでしまう。
柊平は見てるこっちが、もどかしくて
しんどくなるような思いを抱えていた。
柊「...何も言わないと、お前キレる...だろ？」
少し泣いただけで、いつも通りに戻る。
「...はぁ？
心配してる、って言えよ」
柊「...ふ、」
柊平が手を伸ばした麦茶は、
きっとまだ冷たさを残してる。
柊平は何年も抱え続けた思いを、
この短い時間で終わらせようとしている。
「...柊ちゃん」
柊「...ぶっ、なん...！
気持ち悪いな...！」
口に含んだ麦茶が、器官に入ったのかむせ込んでいるが構わず続ける。
「...俺が、覚えといてやる。」
柊「...は？」
柊平はティッシュで、口元拭きながらこちらに目線を向ける。
「柊平が凪咲を...
好きで、本当に大切に思ってたこと。」
柊「...！」
「お前が、
凪咲のために...
抑え込んで、蔑ろにして、床に落とした気持ち。
...全部、俺が知っててやる。」
―――.....
side柊平
きっと、
片想いで終わる恋は、たくさんあるんだと思う。
伝えられずに、消えていく思いも。
相手に届かずに、零れ落ちる気持ちも。
その方がいい時も、あるのかもしれない。
だけど、
『誰かを好きだ』って
あったかくて、やわらかい気持ちは...
なんの為に生まれたんだろう...？
凪咲を困らせたくない。
泣かせたくない。
そんな、俺のエゴのせいで
抑え込まれてきた気持ち。
「...那智、」
那「無駄なんかじゃ、
いらない気持ちなんかじゃない。」
「...っ、」
那「...全部、分かってるから。
これから先も...ずっと俺が覚えておくから。」
大切に、出来なくてごめん。
だけど、こうやって一緒に抱えてくれる人がいる。
那「...だから、安心して忘れていいよ。
ゆっくり、終わらせていけばいい。」
「...ありがとう。」
いつか、
他の誰かを好きになった時は...
もう少しだけ大切にするよ。
ありがとう、さよなら。
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作者名：美波 | 作成日時：2020年6月23日 20時
