勘違い ページ28
―――.....
side智樹
「...実は、決勝戦前に投球が出来なくなってしまったんです。あ、怪我とか故障ではないんですけど。」
俺の言葉に、ザワつく報道関係者に誤解を与えないよう付け加えた。
『そうなんですね...では、今日は万全の状態ではなかったと...？』
「いえ、万全でしたよ。
改めて野球が出来ることや、試合に出れることが当たり前ではないと思いしったんです。」
ここ数日、先の見えない暗い洞窟にいるような気持ちだった。
「何でもない毎日の練習も、支えてくれる仲間や家族...大事な人の存在が有難くてたまらないって思います。」
ありがとう、って顔を合わせて言えることさえも当たり前じゃない。
「...そんな環境で野球が出来ることに感謝の気持ちでいっぱいです。
なので、この夏はそんな気持ちを大事にしながら一戦一戦戦いたいって思っています。」
そう言い終え、インタビューが終了する。
―――.....
『鈴村選手、ありがとうございました！
...ところで、大事な人というワードが気になったのですが彼女さん、ですか？』
智「えっ！」
インタビューが終わり、インタビュアーの女性と智樹先輩と会話が耳に入る。
かのじょ...
そっか、そうだよね。
ずっと、好きだった人と再会して...
そういう流れになるって、ありえるよね。
言えない...言ったら、マネージャーとしても智樹先輩の傍にいられなくなる。
智「.....彼女、ではないです。
でも一番しんどい時に、支えてくれて。
きっと、今日マウンドに立てたのはその人のおかげです。」
照れ屋の智樹先輩が、ここまではっきり言うなんて.....。
―――.....
side智樹
何故か、つらつらと答えることができた。
鈍いから本人は気付かないだろうけど...。
『素敵ですね。』
「あ、いや...なんか余計なことまで喋ってすいません。」
思ってるより、俺は浮かれてるのかもしれない。
やっと、花下と話せる。
―――.....
side将
凪「将先輩...今の雛さんのことですよね、」
「...え？」
いや、違うと思うけど。
やばい、盛大な勘違いが生まれている。
凪「...私、先に出てますね。
荷物、バスに積まないとなので。」
「花下！？」
呼び止める声に振り返ることなく、花下は出口に向かう。
...智樹、もうインタビューはいいから！
憑き物が取れたように晴れ晴れとした表情の智樹に苛立ちさえ感じた。
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作者名：美波 | 作成日時：2020年6月23日 20時
