矛盾 ページ25
―――.....
きっと、今この場にいる人は、
みんな智樹先輩から目が離せないんじゃないかな。
周りを魅了する、引き込んでしまう。
一年前、私がそうだったように...。
初めは、多分ただの憧れだったと思う。
迫られた選択と、
先の見えない不安に
募っていく焦り。
そんな時、
真っ直ぐ前を向く瞳と、背中に惹かれた。
だけど、
外から見える強さの裏には、大きな傷があった。
痛みを抱えたままエースとして、ひたすらに強さを求め、走り続けていた。
その努力は、
実力になり、仲間からの信頼になった。
唯一、智樹先輩本人だけが
自分を信じれないまま。
憧れは、いつしか恋心に変わった。
その心を知った時、
強さも弱さも、全部が好きで...大切で
笑顔も涙も隠さないでほしいって思った。
かっこよくて、かわいくて
頼りになって、ほっとけなくて...
たまらなく傍にいたい。
どこか、
矛盾するような思いを...、
『好き』だけで伝えきれるかな。
―――.....
side将
これまで何回も見てきた、智樹の後ろ姿。
今日ほど、こいつが仲間でよかったと実感した日はないと思う。
気持ちだけで、試合に勝てるわけじゃないけど...
気持ちの乗った投球って存在するんだと思った。
ベンチを見ると、智樹を見つめる花下がいた。
やっぱり、俺の勘は正しかった。
智樹を救ったのは、花下だ。
柄にもなく、泣きそうになる。
智樹が、もう一度マウンドに帰って来れて...
一緒に決勝戦を戦えて...本当よかった。
―――.....
それから、2時間経った頃、
試合終了のサイレンが響いた。
7対0。
鈴華高校は、勝利を収め甲子園行きを決めた。
きっと、この夏を私は一生忘れないと思う。
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作者名：美波 | 作成日時：2020年6月23日 20時
