涙 ページ3
side智樹
凪「...信じて、待ってる。」
「...、」
顔を上げると、今にも泣きそうな花下と目が合う。
凪「先輩たち、みんな言ってました。
誰も、...智樹先輩がマウンドに戻ることを諦めてないんです！」
なんで、お前が泣くんだよ...。
必死に涙を拭うところを見ると、泣くつもりなんてなかったんだなって思った。
「...うちの野球部は、みんな強い。
控えのピッチャーだってたくさんいるだろ...？」
...2年に上がった時に、もらった背番号1は俺の誇りだった。
負けたくない。
この背中の番号に、恥じないピッチャーでいたい。
そう思った。
プレッシャーも、期待も、時にはチームの命運だって背負ってやる。
そんくらい、マウンドは俺にとって特別だった。
だけど、今は...
マウンドに立つことが、怖くてたまらない。
そんな、俺に...
この番号を背負う資格はないだろ？
だから、待たなくていい。
凪「...そんなの！
みんな知ってます...！」
目元を赤くした花下は、俺から視線を逸らさない。
―――.....
「...みんな強い、そんなの知ってます！
それでも、智樹先輩がいない決勝戦なんて...マウンドなんて、誰の頭の片隅にだってないんです...！」
智樹先輩、どうしてですか...？
智「...花下、」
「なんで...っ
誰も諦めてないのに！
智樹先輩本人が一番に諦めちゃうんですか...？！」
せっかく、止めた涙がまた溢れそうだ。
「...甲子園に、行くって言ってたじゃないですか、」
智「...花下、俺はお前が思ってるよりずっと弱いんだよ。」
絶望さえも含んだ声色に、息を飲む。
智「...俺のこと、なんも知らないだろ？」
もう、ほっといてくれ。
そう言われてる気がした。
初めて話をした時より、
マネージャーとして認めてもらえてない時より、
温度のない言葉に、涙も出ない。
「...野球が好きで、
心配になるくらい自分に厳しくて...
負けたことがあるから、見え隠れする自信とか、
不器用な優しさも...
真っ直ぐで、眩しくて...
私、智樹先輩が...」
好きです。
智「...花下、？」
「...帰ります、お邪魔しました、」
そのまま、振り向かずに走った。
智樹先輩が、私を呼んだ気がしたけど
振り返れなかった。
最後まで言えなかった告白も、
今になって溢れてくる涙も、
今日あったこと、全部...夢だったらいいのに。
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作者名：美波 | 作成日時：2020年6月23日 20時
