9話 ページ9
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「何云ってるの?君は僕のお世話係でしょ?辞めるなんてこと此の僕が許すわけないじゃん」
『お世話係になった覚えは無いです』
「君と私は一緒に入水した仲じゃあないか…!一度入水を共にした人間はもう二度と離れられない運命なのだよ?だから君は仕事を辞められない。判る?」
『判りません』
そんな運命、絶対に御免である。そして太宰くんは早く川から出た方が善いと思う。何時まで水に浸かっている気なんだ。
「先刻Aちゃんが急に立ち上がるからさあ…。痛たた。腰をやっちゃって」
『え。…だ、大丈夫ですか?』
あの時派手に転んでるなあとは思っていたけど、真逆立ち上がれないほどになっていたとは。川に落とした太宰くんも太宰くんだが、之に関しては私が悪い。せめて肩だけでも貸そうと私は彼に駆け寄る。
然し、私の心配とは裏腹に、彼は何故か嬉しそうな表情を浮かべている。……何でだ。
私が疑問に思っている間に、彼は立ち上がれない筈の躰をいとも簡単に起こし、ずいっと私に近寄ってきた。
──────嗚呼、此れはきっと罠だ。
そう直感的に悟ったが、既に遅かった。
彼は私の腕を引っ張ると、其の勢いで私は体勢を崩してしまい、彼の胸元へと倒れ込んでしまう。ばしゃり。再び水が大きく跳ねた。
『っ、ちょ、何してるんですか』
「ふふ、Aちゃんは冷たいねえ。でも嫌いじゃないよ、そういうのも」
私の首筋に顔を埋めて彼は呟いた。
冷たいねえって何だ。川に入ったんだから冷たいに決まっている。
「……まんまと騙されちゃって。莫迦だなぁ、君は」
乱歩さんが呆れて溜息を吐く音が聞こえる。
先程は誰も助けを呼べるような人物が居なかったが、幸い今は目の前に乱歩さんが居る。…助けてもらうしかない。
『乱歩、さん』
「助けろって?厭だよ面倒臭い。濡れたくないし」
こういう時、此の人には
『……そういえば、此の前美味しそうなパンケーキ屋さんを見つけたんです。聞くところによると、ふわっふわでもっちもちな生地と滑らかな生クリームとの相性が抜群なんだとか』
「…奢ってくれるっていうの?」
『はい。トッピングも全部付けて善いですよ』
「っ、もう、仕方ないなぁ!絶対だからね絶対!」
…チョロい。あんまりに素直なので、時々彼を1人にするのが怖くなる。そういう気持ちが、彼の"お世話係"として仕事をしてしまう原因なのだろう。
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めろん(プロフ) - ※さん» くん付けで呼ぶことがあまりないので、そういうお話を書きたいなあ…。と思って書いたのがこの作品なので好きになっていただけて嬉しいです!ぜひ続きをお待ちください^^ (2023年2月24日 17時) (レス) id: 0291e6dbfe (このIDを非表示/違反報告)
※ - わ!!!太宰くんと呼ぶのがすごく新鮮で好きです!後輩に翻弄されまくる夢主ちゃんの未来しか見えない…。続き楽しみです! (2023年2月23日 18時) (レス) id: ae50cea684 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:めろん | 作成日時:2023年2月23日 3時