検索窓
今日:4 hit、昨日:4 hit、合計:20,835 hit

ページ9

.





うつくし姫の父親は、ずっと見えていなかった娘の心の美しさに己を恥じ、

翌日の朝、挨拶をした後、バルコニーから飛び降りました。




うつくし姫の母親は、こうも立派な心持ちの娘を産んだ事を誇りに思い、

これだけで自分の役目は終わったと、朝食後、安らかに息を引き取りました。





うつくし姫の優しさを、曲ではとても表現できないと思った音楽家は、

それに釣り合うもの、即ち命よりも大切な、楽器を弾くための両手を切り落とし、うつくし姫に捧げました。



うつくし姫の勇敢さを、彫刻ではとても表現できないと思った彫刻家は、

それに釣り合うもの、即ち命よりも大切な素材を見極めるための目をくりぬいて、うつくし姫に捧げました。



けれど、誰もが命よりも大切なものを持っているわけではありません。



だからしぶしぶ彼らは、心ならずも、

こんなものでは全く釣り合わないと思いながらも、




うつくし姫に、自分の命を捧げました。




差し出された死屍累々を前にして、うつくし姫は嘆きました。


自分はこんなものを望んだ訳ではない。

お婆さんに、魔法を解いて貰おう。




ですが、お婆さんは既に、

命よりも大切な知識の詰まった自分の頭を、うつくし姫に捧げていたのでした。



しかしうつくし姫の美しい涙は奇跡を起こし、

お婆さんの生首は、一瞬だけ、息を吹き替えしました。



そしてうつくし姫に言いました。






「だったら旅に出なさい。」





「魔性を越えるお前の美しさの為に死んでしまう者を、
いつかは助けられるかも知れない。」


「その時まで、お前は人々から離れ続けなさい。」


「決して一つの場所に留まっちゃあいけないよ。」


「そしたらすぐに誰かがお前の元へ寄ってきて、

命を捧げようとするんだから。」








こうして、うつくし姫は死体に埋もれた国を出て、終わりなき旅に出たのでした。





行く道中、うつくし姫は、

とある一人の“鬼”と出逢います。




その出逢いは幸か不幸か


『うつくし姫』という名前を

彼と同じ『鬼』へと変え、




『鬼』となったお姫様は、独りぼっちとなりました。





「私は人間ですらなくなってしまった。」


「けれど、誰も助けられずに死ぬ事はなくなった。」


「私は罪を背負って、誰かを助けられるその日まで、



精一杯生きていこう。」





そう心に決めた彼女は、今も独り、夜をさまよっているのです。







*

捌→←陸



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (27 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
62人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:妃薫。 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakaharaty1/  
作成日時:2018年3月12日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。