壱拾弐 ページ14
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妃薫は夜の街を見下ろしていた。
此処に来た時と同じ様に、陰鬱気な瞳で。
そして、何の前触れもなく、唐突に、落ちた。
そう、これは物語の始まりの合図。今までの話は、ほんの前座に過ぎない。
真っ逆さまに落ちていく。
風ではためく紅色のドレスは、ヨコハマの闇に良く映えていた。
此のまま...──。
妃薫は目を閉じ、心地良さげに微笑む。
ふわりと、割れ物を扱うかのように。
『──え』
「
青い瞳が爛々と輝き、妃薫を捉える。瞬間、妃薫は心の内で苦笑した。嗚呼、逃げられないな、と。
「何処ぞの木偶に何か吹き込まれたか?」
『...それは治の事なんだろうけれど、生憎彼とは少し話していただけよ、中原さん』
中原「ンで彼奴は名前呼びなんだよ...」
『正直、苗字で呼ぶのは慣れて居ないのよ。暫く外国にいたものだから』
中原は鼻で笑って、妃薫を抱えたまま屋上へと戻った。
妃薫は中原を見、笑い出す。
中原「何が可笑しい」
『ふふ、ふはははははっ』
中原「おい」
『あはははははははっはははは』
中原「...絶対ェ何か馬鹿にしてんだろ」
『いや、ふふっ...もう少し身長があれば、惚れてたかも知れないのになぁと』
中原「潰すぞ手前」
『あっはははははははははは』
ビブラートの様に辺りに響く笑声を聞き、中原は溜め息をついた。
一頻り笑い終えると、妃薫は中原を見詰め、何故助けたのと問うた。
中原「...皆で考えてたんだよ。手前の過去も含め、これから如何するか」
『へぇ、それで?』
中原「
妃薫は何も云わず、中原を見た。
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作者名:妃薫。 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakaharaty1/
作成日時:2018年3月12日 1時