検索窓
今日:3 hit、昨日:2 hit、合計:20,846 hit

壱拾壱 ページ13

.







太宰「──それじゃあ、貴方は...」

『世界から取り残された様な表情、ね。あながち間違ってはいないわよ。何時だって世界は私を置いて行く。人も自然も、空も海も大地も、知らぬ間に全て変わって行く』




その瞳に浮かぶのは、深い哀しみと淋しみ、そして孤独だった。



『私ね、ポートマフィアに入ったのよ』




太宰が目を見開いた。




『嗚呼、安心して頂戴。貴方の事を首領や他の幹部達に云う心算は無いわ。──ま、あの人達はもう、私を敵だと認識しているかも知れないけれどね』

太宰「...話したのかい?」

『ええ。知りたがっていたから』

太宰「...それなら」


『探偵社にも行かないわよ』





妃薫は笑って云った。




『もう、疲れたのよ。何もかも。──でも休む事は許されない。マフィアに入れば、こんな罪悪感のような感情も失せるかと思ったんだけれどね。無駄だった』

太宰「...案外、君と私は気が合うのかも知れないね」

『...それじゃあ、教えてよ、太宰さん』




黒く真っ直ぐな瞳で太宰を見詰め、云う。





『自分でも解らないの。ずっと自分は休んじゃ駄目だなんて格好付けて云っていたけれど、でももう、疲れちゃった。己を偽るのも、重い物を背負って生くのも、全部』


太宰「...私には、君の孤独は解らない。其れに近しい物は知っているけれどね。だから、私から云える事はあまり無いよ」




妃薫は瞳に影を落とし、自虐的に笑んだ。





太宰「全て忘れる事は出来ないのかい?君の其の罪を」

『......忘れて、其の後どうすれば良いか判らない』

太宰「自由に生きれば良いじゃないか」





妃薫は太宰の目を見た。鳶色の、僅かに濃い黒が混じった真っ直ぐな瞳を。そして再び笑い、空になったワイングラスを置いた。





『有難う。とても楽しい時間だったけれど、私はもう行くわ。又ね、()





去って行く矢張り淋しげな其の背中を、太宰は黙って見送った。

壱拾弐→←壱拾



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (27 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
62人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:妃薫。 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakaharaty1/  
作成日時:2018年3月12日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。