壱拾壱 ページ13
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太宰「──それじゃあ、貴方は...」
『世界から取り残された様な表情、ね。あながち間違ってはいないわよ。何時だって世界は私を置いて行く。人も自然も、空も海も大地も、知らぬ間に全て変わって行く』
その瞳に浮かぶのは、深い哀しみと淋しみ、そして孤独だった。
『私ね、ポートマフィアに入ったのよ』
太宰が目を見開いた。
『嗚呼、安心して頂戴。貴方の事を首領や他の幹部達に云う心算は無いわ。──ま、あの人達はもう、私を敵だと認識しているかも知れないけれどね』
太宰「...話したのかい?」
『ええ。知りたがっていたから』
太宰「...それなら」
『探偵社にも行かないわよ』
妃薫は笑って云った。
『もう、疲れたのよ。何もかも。──でも休む事は許されない。マフィアに入れば、こんな罪悪感のような感情も失せるかと思ったんだけれどね。無駄だった』
太宰「...案外、君と私は気が合うのかも知れないね」
『...それじゃあ、教えてよ、太宰さん』
黒く真っ直ぐな瞳で太宰を見詰め、云う。
『自分でも解らないの。ずっと自分は休んじゃ駄目だなんて格好付けて云っていたけれど、でももう、疲れちゃった。己を偽るのも、重い物を背負って生くのも、全部』
太宰「...私には、君の孤独は解らない。其れに近しい物は知っているけれどね。だから、私から云える事はあまり無いよ」
妃薫は瞳に影を落とし、自虐的に笑んだ。
太宰「全て忘れる事は出来ないのかい?君の其の罪を」
『......忘れて、其の後どうすれば良いか判らない』
太宰「自由に生きれば良いじゃないか」
妃薫は太宰の目を見た。鳶色の、僅かに濃い黒が混じった真っ直ぐな瞳を。そして再び笑い、空になったワイングラスを置いた。
『有難う。とても楽しい時間だったけれど、私はもう行くわ。又ね、
去って行く矢張り淋しげな其の背中を、太宰は黙って見送った。
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作者名:妃薫。 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakaharaty1/
作成日時:2018年3月12日 1時