6 護衛官と誘拐未遂事件 ページ6
ここはワンダーステージ。少し古びた舞台と、観客席が野外に設置されている。閑散としたそれらには寂し気な雰囲気を感じるが、そんな場の雰囲気とは裏腹に観客席の真ん中では二人の男女が大きな声で元気に言い争っていた。
＿＿いっしょにショーやろうっ！ おーねーがーいー！ やるって言ってよ〜〜〜！！
＿襟をひっぱるのはやめろ！ 息が……！
一方は男の襟を掴み振り回して駄々をこね、もう一方はやめろやめろと騒がしくわめいている。別に修羅場ではない。小柄で明朗快活な印象を与える、その少女が必死に頼み込んでいるだけだ。
ふいに彼のスマートフォンの画面が光る。プロジェクターの中から現れたのは、一人のかわいらしい少女。ターコイズの髪を高めの位置で二つに結い、毛先にカラフルな玉をつけている。特に目を引くのは頭についた赤い猫耳。
ハイトーンボイスを楽し気に躍らせ、自由にしゃべる少女に、先ほどまでじゃれあっていた二人はしばらく目が釘付けになる。彼女が消えた後も困惑した様子の彼ら。そして再び彼の操作するスマートフォンはまぶしい程の光を放ち、二人を包み込んだ。
その光が退くころには先ほどまでそこにいた彼らは、まるで最初からそうであったかのように忽然と姿を消してしまったのだ。
＿＿この一部始終を見ていた者が一人いた。ステージ裏にいた、少女の従者だ。
片づけをしていた彼女はスマートフォンが不審な光を放つや否や危機感を覚え、本能のまま主人の元へ駆け出した。光が二人を完全に包み込んでしまう前に彼女はその元へ滑り込み、なんとかピンクの布切れを指先で掴む。
その瞬間、光は一段と強烈に光り、ひと三人をどこかへと拐かしてしまったのだ。
白昼堂々、そのど真ん中で神隠しが起こったワンダーステージは騒然としていた。
草陰に隠れていた者たちが一斉に出てきて、攫われた二人を捜索し始める。なんていったって、少女は財閥の末娘だ。その存在が確認されないと言えば、大事件になる。
また、中でもコーラルピンクの着ぐるみ＿＿指揮を執っている姿を見るに、彼がリーダーなのだろう＿は大声をあげて必死に誰かの名を呼んでいた。
おかしいのだ。あの少女のこととなれば誰よりもうるさいはずの、あの従者がいない。
着ぐるみはその従者にいつも上司として厳しく接していたものの、家族としては一等大切にしていた。そんな大切が、消えた。彼は珍しく取り乱しているようだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 25人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2024年1月18日 22時
