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「それじゃあ、どうしてここに来たんだい？」
苦しそうに俯く彼女に類は無神経そうに問うた。
＿＿分かってるくせに。全部知ってて、それでこうしたくせに。
優しい彼に、ありがとうの一つも言えない自分に寧々は嫌気がさした。生ぬるい風が二人の間をするりと通り抜けていく。ヘリオトロープの優しい紫色は、空に舞って、シトリンを隠した。
「……ほんと、性格悪い」
「フフ、そこはお互い様じゃないかな？ まあ、家でゲームばかりも飽きるかと思ってね。新しいゲームだと思って、楽しんでほしいな」
そんな風に思えるわけないでしょ。その言葉は口に出なかった。ふい、と横を向く。この責めるような表情が、不機嫌そうな言葉と態度が、ただの照れ隠しだということを彼は知っている。
＿＿いつもこんなこと勝手に一人で始めて……悟られてないとでも思ってるんだろうけど、こっちだって全部わかってるし。いい、私も勝手言わせてもらうんだから。
いわば、ちょっかいだ。相変わらず飄々とした態度の彼を、ちょっとばかりおちょくってやるだけ。
「まあ、わたしも類が心配かな。恋愛シミュレーションゲームなんてしてこなかったもんね」
彼の不敵の笑みが崩れた。今度はこちらが笑みを浮かべる。やっぱり、当たっていたみたいだ。女の勘、というか幼馴染の勘だろうか。
「……さて、何のことかな。さあ、そろそろ帰ろう。ネネロボの充電もしたいところだし」
「へえ？ こんな奇跡みたいなことがあったのに、結局へっぴり腰になって退くわけ？ あーあ、残念だな。あの類にやっと青春が来たと思ってこっちはほっとしてたのにな。わたし、ちょっと叔母さんに話そうと思ってたんだよね」
「寧々……今、なんて？」
類は目をそらして話題を変えようとするが、それは彼女によって戻されてしまい、虚しくも適うことはなかった。しかも、見た目大人びた彼でも中身は思春期の男の子だ。母親に色事を告げられそうになって見て見ぬふりなどできない。
ふん、逃がすもんか。こちらに背を向けたまま立ち止まった彼を捉えた寧々の目がキラリと光った。
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作成日時：2024年1月18日 22時
