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白い肌に細い髪が散らばる様子がまるで絵画のように美しくて、えむは気付かない間にAの三つ編みに手を触れていた。
「Aちゃんの髪の毛、あたしが結んであげよっか？」
「えっ」
彼女の綺麗な瞳が大きく開かれた。その瞳には迷子みたいな顔をした自分が写っている。
そそそそんな、お嬢様のお手を煩わせるわけには！！やだなぁ、いつの間に解けちゃったんだろ…と言いながら慌てたように距離を取り、髪に手をやるA。その反応にしゅんとなるえむ。
「ごめんね、あたしに結ばれるの、いやだったよね」
「えっいやいやいやそんな訳ないですっ！ 是非！！ お願いします！！」
絹のような美しい髪を手に、彼女はえむにせまった。いいのかな。
えむが恐る恐るAの頭に触れると、彼女はふわりと笑った。つられてえむも笑顔になる。緊張していた心が解かされ、安心して息がはける。
えむは、他の人に対してはぐいぐいと距離を縮められるタイプだが、Aに対してだけはちょっとばかり臆病だった。だって、嫌われたくない。
＿＿あたしがAちゃんのご主人様には相応しくないってこと、分かってるのに離れたくないなんて、ずるいかな。
Aはとっても優秀だ。まだ幼いころに出会った時からずっとそうだった。
彼女は精一杯えむに尽くしてくれるが、内心護衛官の仕事を嫌がってるだろうとえむは思う。彼女ほどの才能を、立場と仕事に括り付けてしまうことにえむはずっと申し訳なさを感じていた。
大好きだからこそ、世界に羽ばたいてほしい。でも、自分が情けないばかりに彼女を手放してやれない。今だって、仕事に疲れたAを癒したくて、彼女に好かれたくて髪結びを申し出た。
ピンク色のたい焼きのビーズが通された髪ゴムを手に取って、えむはAの髪を編み始めた。彼女の髪はとても柔らかくて、すくってもすくっても手から零れ落ちる。触り心地もふわふわ。
結んでいる間はとても静かだった。心地よさに打ちかてずに、そのままAがうたた寝していたこともある。揺れ一つない車の空気には、眠る彼女の小さな呼吸がひとつ、ひとつと落ちていく。
えむは沈黙の中、口を閉じ、絹を結って、ただ従者への愛をその手つきに込めていた。
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作成日時：2024年1月18日 22時
