17 鳳えむという主人 ページ17
翌日、早朝。Aは皺ひとつなく伸びた灰色のセーラー服に、大きめの黒いコートを羽織って、兄と共に鳳邸を訪ねた。
彼女の主人を迎えに行って、車に乗せ、学園まで共にする。Aは、もちろんクラスまで同じで、何かあった時のために常にお嬢様のそばに控えている。これも護衛官の仕事のひとつだ。
いつも通りの時間に迎えに来た護衛陣に囲まれ、えむは乗車した。ちらりと横を見る。普段だったら、えむがAを見たらすぐに彼女はそれに気づいて、微笑み返してくれる。Aはいつだってしゃきんと背を伸ばし、隙一つ見せない完璧な従者だった。
だが、今日のAは目蓋を重そうにあげ、誰にも分らないように小さくあくびをしている。
__Aちゃん、今日はちょっと眠いのかも……。昨日、あたしがあっちこっちに振り回しちゃったせいかな。
司くんに会って、セカイに行って、『紫の笛吹き男』さんを見つけに園内を探し回って……。えむにとっては楽しい一日だったが、ずっと傍にいなければならない彼女にとっては苦痛だったのかもしれない。
現に、昨日の去り際にはAは少し厳しい顔をしていた。身体も疲れていることだろう。でも、彼女はゆっくり休みたくても、えむの従者という立場故にこんな朝早くから出勤しなければならない。
実際は、誘拐未遂への反省を胸に、Aが帰宅後トレーニングや勉強を夜中まで続けていたせいで寝不足なのだが、そんなことは知らないえむの心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
__お兄ちゃんたちに言ってるAちゃんの海外留学のお話、進めてもらわなきゃ。……あ、
Aちゃん、髪の毛が解けちゃってる。
えむがそう思って見ているうちに彼女の柔らかく、艶やかな髪の一束が編み込まれた三つ編みからするりと抜け落ちた。
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作成日時:2024年1月18日 22時