13 紫の笛吹き男 ページ13
ザッ、ザッ、ザッ…。人が土を踏みしめ、落ち葉同士がこすれる音が辺りに響く。
濃く強い草の香りが鼻腔をくすぐり、身体の中にじんわりとした生ぬるい暑さがこもる。鬱蒼と生い茂って、道に影を落とす木々も窮屈そうだ。まばらに設置された照明は、まだ昼だというのに点灯されている。
それらを見て、最初に反応したのは天馬司だった。
「なんか……ここ、都市伝説がまことしやかに囁かれてそうだな。薄暗くて若干ホラーというか」
「あ、たしかに夜になるとこの道はすっごく暗くなるかも！ でも着ぐるみさんたちもいるし、怖くないよー」
ねっ！と私の方を振り返り、笑いかけるお嬢様。そのぴかぴか笑顔に暑さが吹っ飛ぶ。
「それに、としでんせつ？はあたし、聞いたことないな。Aちゃん、何か知ってる？」
「都市伝説というか、不審者というか、ここの従業員の間で噂される話は知っています。
なにも、このフェニックスワンダーランドには稀に『紫の笛吹き男』が現れるそうなんです。背が高く、黄色の瞳と、紫の髪をしているのだとか。
突然道に現れては奇怪なことを初めて、子供たちの注目を攫ってしまう。それで、警備員さんが見つけて追っかけるとあっという間に去っていくので捕らえることができない、と」
知り合いの方が、休憩室での愚痴話ついでに教えてくださったものだ。ベテランの方でも逃がしてしまう程だ、逃げ足が相当早いのだろう。
「そいつ、何か目的があってやってるのか？」
「知りません。でも、警備員たちが言うには子供たちの興味を集めて誘拐でもしてしまうのではないか、と。彼が芸を始めると、誰も彼も夢中になって見入ってしまうようで」
「ふーん。だから、童話になぞらえて『笛吹き男』と呼ばれているのだな」
「未遂ですけどね」
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作成日時：2024年1月18日 22時
