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「ぷくぷく〜〜!マンボウさんだよ〜!」
廃れたステージに響く明るい声。
ガタンと照明が動き、少女を照らす。
青い光に包まれた少女はその場でくるくると回り、軽快なステップを踏む。その動きに、衣装がワンテンポ遅れてついていき、ヒラヒラと空中に舞うその様子はまるで水の中のようだ。
キラキラと輝く瞳と笑顔は純粋無垢そのもので、観る者すべてを魅了するが、あいにく観客席には誰一人としてそんな彼女の姿を目におさめる者はいなかった。
あれから数十分後。衣装に身を包んだえむお嬢様が到着し、メモに書かれた内容を反復するとすぐさまステージに躍り出た。
役者は彼女ただ一人、観客に至っては人ひとりだっていない。
それでもえむお嬢様は毎日ここでショーをする。ワンダーステージを守るため、先代との約束を守るため。
それらは、その小さな背中に背負わせるにはあまりにも大きすぎるものだが、えむお嬢様が重圧に屈したことは無かった。白磁の肌を真っ赤に染め、瞳に宿ったスピネルを輝かせる。今まで、曇りを一切見せないその笑顔にどれだけ多くの人が救われたことか。
それでも、彼女が完璧な聖女様なのかと言われれば、違う。時々がらんどうな観客席を見て、寂しそうな顔をする。あまりに痛々しくて、私は彼女をこの腕に仕舞い込みたくなるが、彼女はそれを決して望まない。
だから、私はこの袖裏から見守るだけ__なのだが、今日はいつもと少し違う気がする。
表情がほぐれているのだ。何か良いことでもあったのだろうか。
あぁそういえば、先日「あのね、とってもいい人が見つかったんだ」と嬉しそうにしていたが___
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作成日時:2024年1月18日 22時