1 鳳えむと護衛官 ページ1
残暑。夏の季節も終わり、秋を迎えたころ。冬と言うには暑く、夏と言うにはまだ快適な空気の中、ほこり取り片手にワンダーステージを掃除していた。
もう9月も終わるというのに、未だに太陽は煌々と地面を照らし続け、我々の体力を吸いとってゆく。
いぬの被り物の中は信じられないほど蒸し暑く、息がしづらい。全身からだくだく湧いてくる汗が肌を湿らせる。一粒の露が背中をつうと流れた。くすぐったい。
「…あつい。兄さん、これ脱ぎたい」
私がそう言うと、横にいたいぬの着ぐるみはその頭をこちらにぐりんと回転させ、睨みを効かせた。
「駄目だ。それを脱いだら顔が知られるだろう。我々はお嬢様の護衛。お嬢様に何かあった時のために、顔は臥せておく必要がある。
それと、言っておくがここは職場だ。私語はつつしめ」
よく通るダンディーな声が無機質に答えた。
やっぱり駄目だった。生真面目ないぬは自他共に厳しい。そう、頭だけ被っている私と違い、そのいぬ__もとい兄は全身が着ぐるみに覆われている。兄の方がずっと暑いだろうに、私が音をあげるのはなんだか情けない。
それに、えむお嬢様のためと言われてしまえば、言いつけを破る理由も失くなってしまう。
__兄さん、私のことよくわかってるなぁ。
そう思いながらも、脳裏に浮かぶのは一人の女の子だった。パパラチアのやわらかい髪とピンクスピネルの澄んだ瞳。浮かぶ笑顔はいつも、誰かのために輝いている。
私は、そんな少女に心底溺れているのだ。
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作成日時:2024年1月18日 22時