04．▽ ページ6
「俺は、お前と絶対に結婚しねえ。クソ親父のことだ。どうせ俺を利用してお前の個性や将来性を手に入れようとしてんだろ」
さっさと、破談にさせて帰れ
轟焦凍の口から冷たく吐き出された言葉が静かな室内に消え散る。
自分の父親のことをクソ親父と呼ぶ姿で仲の悪さをアピールしつつ赤の他人である私にも強めの姿勢に苛立ちを覚える。
自由気ままな姉と甘々な父親のお願いでこのお見合いに姉の代わりとして来ただけの私。
今回の任務は姉のために少しでも印象を良くして帰ることだったのだが、少しばかり無理な気がしてきた。
否、絶対に無理だろと目の前の男の姿を見ながら思考が叫ぶ。
冷えかえる室内に息苦しさを感じる。
着慣れていない着物が行動を制限させる。
自身の藤の花を連想させる髪色に合うように選ばれた白色と薄い水色の混ざった着物が体を締め付ける。
「おい、聞いてんのか」
一向に返事を返そうとしない私に痺れを切らしたのか催促という名の言葉をかける轟焦凍にぱっと視線を戻す。
目の前の整った顔に映える左目元のケロイドが存在を主張する。
灰色と緑色のオッドアイが鋭くこちらを突き刺す。
まるで、他人のことなんて興味はないと言うかのように。
今すぐにでも帰りたいという欲を無理矢理、抑えこむ。
「お忙しい中、わざわざこのような場に来てくださって感謝しております」
「しかし、すぐに破談にされますと家はヒーロー様を相手にする商売なもので、親に迷惑をかけてしまうというか…」
縫ってつけたような苦笑いを浮かべる。
Ｎｏ．2プロヒーローであるエンデヴァーの息子と大手サポート会社の経営者の娘がお見合いをしたという話は業界内でも少しは、話題になるだろう。
しかし、1回の見合いの席ですぐに破談にされるということは、格下である望瞬家に何かマイナスな面があるのではと噂される可能性が無きにしも非ず。
つまり、親に迷惑がかかるかもしれないのだ。
そこで、今回は穏便に済ませたいとお願いを持ちかける作戦をとることにシフトをチェンジする。
断るのであれば、次回で破談にしてくれ、と。
姉がくるであろう、2回目に繋げさえすれば私の今回の任務は完了となるのだ。頼む。
と、心の声を押し殺しながら頭を深々とさげる。
「無理に決まってんだろ」
しかし、現実は上手くいかないらしい。
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作者名：砂時計
| 作成日時：2020年2月17日 20時
