16 ページ18
『えっと…お、さむ？』
治は目を泳がせながら、口をもごもごと動かしている。
何か言いたげな感じだけど…
『言いたいことあるなら、はよ言って。』
「…あー、その…」
『……』
……気になる。
治の髪の毛は濡れていて、水がぽたぽたと落ちている。
水も滴るいい男とはこのことかと呑気にそう思ってしまった。
『……あーもう、ちょっと入って。』
「え？っちょ、」
私は治の腕を掴み返して、部屋の電気を再びつけた。
バタンと扉を閉めて、ベッドに座る。
治は珍しく目を見開いたてはキョロキョロと周りを見ている。犬か。
『……背向けて座って。』
「は？」
『ええから、はよ。』
治はゆっくりと胡座をかいて私の前に座る。
私は治の首にかけてあったバスタオルをバッと取って、髪の毛をわしゃわしゃと拭き始めた。
きっと、こんなことしとるのはお母さんの言葉が脳裏に浮かんでいるから。
「んっ、…」
『痛かったら言うて。』
「Aは丁寧で気持ちええから好き。」
『…そっ、か。』
治の髪の毛を拭くのはいつぶりだろう。
去年銀髪に染めたのを初めて見た時はびっくりしてたなぁ。
「……ごめん。」
思わず手を止めてしまった。
あまり聞かない治のちょっと弱々しい声に。
『……別にあんたらのせいでも何でもあらへん。ただ私が下手くそなポンコツやっただけや。慰めなんかいらん。』
「……A、」
『…私があんたらと同い年で、男に生まれとって、血が繋がってなかったら今どうしとったやろなぁ。』
「ッ！！」
治は思わず振り返り、私の胸ぐらを掴んだ。
「ふざけんなや。」
『ふざけとんのはどっちや？
確かに私はポンコツ。賞の数も、成績も。あんたらには遠く及ばん。
せやけど、バレー一筋やなくて勉強もサボらんと一生懸命やってきたんや。
それだけが誇りやったのに…私の努力まで間違いやったみたいに言わんといてや…！！』
治の腕を振り払って、私は階段をかけ降りた。
途中侑とすれ違ったけど、それどころやなかった。
(素直じゃないやつ…)
あんなこと、言うつもりやなかった。
言ったところで何か変わるわけやないのに。
何で、北さんの時みたいになれんのや。
北さんに言うた時のように素直に言えや。
(ごめん、治、お母さん。)
私、心までポンコツみたいやわ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4222人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さっちゃん - めっちゃ面白かった！なんかもう、言葉にならない…。感動😭 (4月24日 20時) (
レス) @page50 id: c5a0fb1f72 (このIDを非表示/違反報告)
さつむいも - めっちゃ面白かったです！感動して泣きかけました...！神作を有難うございました！！ (4月20日 18時) (レス) @page50 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
こめつぶ(プロフ) - めっちゃ神作でした…！！！親と兄弟が目の前にいるのに何度も涙出そうになって、めっちゃ堪えました。本当に素敵な作品、ありがとうございます！！！！多分これからもリピートさせていただくと思います！！(() (4月8日 16時) (レス) @page50 id: e94f7d2b88 (このIDを非表示/違反報告)
ふゆ - 神作ッ！！！主様天才すぎます。3周目に突入したのに涙が... (4月4日 0時) (レス) @page47 id: d24603059d (このIDを非表示/違反報告)
赤羽 - なるほどなぁ、、神、 (4月3日 1時) (レス) @page50 id: b22b7ccd76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にろ
| 作成日時：2020年5月17日 14時
