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「あ、伊沢さんお疲れ様でー……」
「……伊沢さんのご親戚ですか?」
「まぁ、間違ってはないな。会議ついでにその事も話すから、取り敢えず中入ろうぜ」
笑顔で俺に労りの言葉を投げ掛けようとしてくれた山本と、なにかを察したように声のトーンをいつもより落とした川上だ。二人の視線はやはりAちゃんに注がれ、深入りして良いのかどうかという躊躇いが言葉にせずとも伝わってくる。
それもそうだ。葬儀に出席してくると連絡を入れてきた上司が突然子供を連れて帰ってきたら誰だって戸惑うし、その未知の存在のことが気になる。俺が逆の立場だったとしたら、迷わず聞いていたと思う。
その子、誰___?
「山本はこの子と一緒に居てあげてくれない?会議の内容なら、僕がメモしておくから」
「あ、分かりました!」
本当は聞きたいことも山程あるはずなのに、山本は河村さんの頼みに文句もなにも言わず笑顔で承諾し、Aちゃんの前にしゃがみこむ。やはり子供を前にするとしゃがみこんでしまうのは、大人の癖みたいなものらしい。
山本が元気よく「僕は山本祥彰って言います。よろしくね」と自らを紹介すると、テンションは対照的ではあったが、Aちゃんも「八神Aです」と返し、口を閉ざす。
けれど山本はそんな彼女に対して嫌な顔や戸惑ったような顔を一切表に出さず、「Aちゃんかぁ!良い名前だね。可愛い」と言ってわしゃわしゃと優しく頭を撫で始める。
一言で言えば、山本に頼んだ河村さん流石だと思った。
「あ、あとさ山本。会議結構長引きそうだから、先にAちゃんにご飯作っといてあげて。余裕があったら新品の歯ブラシ置いてるから、それで歯磨きとか、着替えないかもしれないけど風呂とかもお願いできたら……」
「もう、心配性ですねぇ。ちゃんと出来ることはやっときますよ!」
これでも僕、有能なんで。なんて言って変な決めポーズを取る山本に幾分か心が軽くなって、「ありがとう」と溢す。
山本と話す俺の横を先に河村さん達が通りすぎ、会議室に消えていく。その背中を見つめて、思わず俺はAちゃんの手を強く握ってしまった。
変わらずの無表情が、俺を見上げる。
……覚悟は、決めた筈だった。それなのに今こんなにも不安なのは、何故、なんだろうか。
《第三節へ》
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白菜(プロフ) - 凛花さん» 気づくのが遅くなってしまってすみません!イラスト気づいて頂けましたか……!ご想像通りの八神ちゃんが描けていたみたいで良かったです!! (2020年8月26日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
凛花 - イラスト…イラストが…!!もう八神ちゃんですね…可愛い…私の想像した八神ちゃんだ…尊い…(語彙力低下) (2020年8月14日 23時) (レス) id: 0e33e6ca02 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - るるあ。さん» ご指摘ありがとうございます!キーボードが押せてなかったのかもしれません…早急に直させて頂きました!るるあさんも体調管理には十分にお気をつけて! (2020年8月8日 19時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
るるあ。 - ページ48の後半の「ひしひし」の部分、「ひしひ」になってます…いつも更新ありがとうございます!このご時世なので、お身体には十分お気をつけくださいね! (2020年8月8日 15時) (レス) id: 807ddee245 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 藍知さん» Sgさんですよ…ほれほれ……() (2020年8月8日 13時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
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