Euphoria【Raul】 (ページ44)

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Grateful days 44 ページ44

家に帰ると、廊下を隔てるすりガラスの向こうのリビングは真っ暗だった。手前の自室に直行する。

大きな靴が玄関に揃えてあったから、ラウールはもう部屋で寝てるのかもしれない。

シャワーを浴びて、何か飲もうとリビングへ足を向ける。廊下の電気のせいで室内はぼんやりと仄暗い。黒いソファの上に、白いカタマリが乗っかっているのが見えた。

寝てる・・・？とりあえず電気はつけないでおこう。

そうっと近づく。自分の腕を枕にして、狭いだろうに限界まで体を丸めているラウール。そのまぶたはしっかりと閉じられている。

「ただいま」

小さな小さな声で、言ってみる。

ラウールが来るまでは『ただいま』と言っても、当たり前だけど返事はなかった。

それが、今はラウールが『おかえり』って言ってくれる。

そのことばは、存在は、思っていた以上に心に大きな衝撃を与えるものだった。

元々いないはずのひとなのに、いつのまにかいることが当たり前になってきている。

いなくなったら、寂しいだろうな・・・

ふと、そんなセンチメンタルな気分に見舞われて、顔の近くにしゃがみ込み、艶やかな髪に手を伸ばした。指先に伝わる柔らかな髪の毛の感触と、体温。

「・・・おかえり」

掠れた声が、かすかに聞こえた。