恐怖欠落者

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船ページ4

歪みながら現れた場所は僕の部屋。
いや、船長室と言った方がいいかな。

僕は船の船長だが、なんの船長かは分かっていない。
カモメの帆を掲げているわけでもなく、海賊の帆を掲げているわけでもない。

そもそも外から帆は見えないだろう。
この船は目に見えない、あったりなかったりの船なのだから。

扉を開けると生い茂る木々が目に飛び込んできた。

そして空を飛び回る、葉が人型になったような妖精たち。
僕の帰りを喜び沢山飛んできた。

『ただいま』
小さな声でクスクスと笑っている。

木々の奥から走ってくる小さな毛玉。

「船長！
　おかえりなさいませ」

走ってきたのは少し大きめの茶色がかったネズミだった。
背に小さな剣を持ち、頭に赤い羽根をつけた小さなネズミ。

そいつは器用に二足歩行で立ち、頭を下げた。

『やぁ、ただいま
　頭に羽根をつけたところで君は君だよ』

そう言うとネズミはパッと顔を上げ、羽根を一撫でしてゴホッとわざとらしく咳き込んでみせた。

「いいんですよ
　私はこれで
　それよりも鹿がまた木を増やしたんですよ！」

全く葉の妖精が増えてたまらないとネズミはぶつくさ言いながら腕を組んだ。

『木は物を消す力がある。
　やってきた時代を奴はよくわかっているんだよ。
　丁度僕も増やす気だったしね』

そういうとネズミはふむと顎に手を当て、走って行ってしまった。

次にやってきたものは顔の目の前に腕を組んで飛んでいた。

「遅いお帰りで」

人型に青い蝶の羽が生えたような姿の者。
この子は水から生まれた妖精で、とてもおしゃべりだった。

この船で喋れるのは、あのどんくさいネズミと、口うるさい蝶ぐらいだ。

『そう怒るな』

「ふん
　七武海の椅子にサー・クロコダイル
　という男が付きましたよ」

この蝶は千里眼を持っており、新聞を届けてもらわなくても、いち早くニュースが分かる。

『おや、ありがとう
　サー・クロコダイルか…』

僕は考えるそぶりを取って、足を進めた。

「鹿の木のせいで、キッチンまで葉っぱだらけ
　これ以上妖精が増えたら溜まったものじゃない
　あいつらに一体いくつの卵が盗まれたか‥
　洗濯物にまで葉っぱがついて」

グチグチと肩の上で喋り続ける蝶

その愚痴に溜息をつき、前を向くと

白い目を光らせた、鹿と目が合った。
顔には影が落ちて、僕を見つめている。

そしてそのまま歩いて行ってしまった。

「挨拶も無しか！」
少し気難しい性格だ。