どんなあなたも【短編集】

危 ページ46

「君、大人しいコだね。ちょっと殻を破ってみない？」


金曜日、交差点を渡っている途中に横に並んで声をかけられた。
やば、スカウトみたい。マジで絶対に無理。キモい。
片耳にイヤホンをしていたから音楽を聞いていて知らないふりをして無視したらそのまま男は去っていった。

大人しく見えたからすぐについてくるような軽いノリだと思われたのだろう。
残念でした。私はプライドがこう見えて高いのよ。
本気なら強引に誘ってくれないと。


それもそうだろう。私はメガネをかけていてメイクもしていないに等しい。
さらに髪は染めてない黒髪で無難なポニーテール。
THE清楚と言ってもいい。

だけど、それはあくまでも学校での私。
本当の私がコレだなんて、誰が言った？
外見というものは本性を隠すもの、と言うでしょう？

シャツのボタンを一番上まで留めているような生真面目で遊ばないタイプって決めつけないで。

私は心の中で呟いて、4番と書かれたコインロッカーを開けて中に入っている物を持ってトイレに入った。


慣れた手つきで制服を脱いで派手なワンピースに着替える。
そしてメガネを外してコンタクトを入れ、鏡の前に立ってメイクをして髪をアイロンで巻く。

『よし』

私は大人の街へと一人で飛び出した。




.




「君めっちゃ可愛いじゃん！ちょっと一緒に話そうよ」

『良いですよー？でも、給料前だから今金欠なんですよね』

「そんなの俺が奢るよ、ね」

『じゃあそれなら』


チョロいな。とニヤリと笑う。
顔はそんなにタイプじゃないけど奢ってくれるならいっか。


「ねえ、名前は？」

『Aです』

「Aちゃんね、今いくつなの？」

『いくつに見えます？』

「んー、24！」

『正解です！すごーい！』


まるでキャバ嬢かのようにわざとらしく褒めると満更でもなく照れる男。
いつもは20とか21にしか見られないから、今日はうまくいったかな？
この調子でもっとサバを読もうっと。


「あれ、これジュースじゃん」

『あ、私下戸なんですよ。けど、ジュースも美味しいんですよ』

「あ、そ、そうだったんだ、はは」

『えへへ、あ、ちょっとお手洗いに行ってきますね〜』


お手洗いに行くフリをして店を出る。
顔に出すぎだよ。酔った女しか連れ込まないとかクズすぎんだろ。
仕方ない。また別の人を探そう。

そう思って当てもなく歩いていると、声をかけられた。

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