#6 ページ31
「今度は君たちがバトンを受け継いだのか?」
最近会っていなかったからたまにはこっちから出向いとくか、という話になり須貝さんと僕でマホさんの家に行くと、いつもなら明るく出迎えてくれるはずのマホさんが眉間にしわを寄せてボソッと呟いた。
「何の話?」
「いや、こっちの話」
「生存確認しに来ただけだから長居はしないよ」
「はいはい、それで?」
ふっと笑ってキッチンに行き、コーヒーを僕たちに出してくれるマホさんは僕たちがいつも見ている彼女で何だか少し安心した。須貝さんと鞄を隅に置かせてもらってソファに座り、今日も相変わらず時間の合っていない時計が元気に秒針を刻んでいるこの景色に心が穏やかになった。
「いやー、別に話すことは特にないんだけど」
「じゃあ帰ってくれる〜?仕事の邪魔〜」
「そんなこと言わないでよ」
「ていうか本当に仕事してんの?」
須貝さんは失礼なことを言っているように聞こえるが、いや実際問題失礼な発言なのだが、この言葉の裏には 今どうなってるんだ という意味合いが含まれていた。
「実の所全く動きがないのでね、調べようにも調べるものがないんだよ」
「暇ならオフィス来ればいいじゃん」
「そうはいかないよ〜仕事の邪魔になるだけだし」
意外と常識はあるんだなと心の中で思ったけれど言葉にはしなかった。多分須貝さんも思っただろうし、思った上で言わない選択をとったと察した僕は、うんうんと頷きながら出してもらったコーヒーに口をつけた。
「ここまで何もしてこないのはどういう意図なのかね」
須貝さんの鋭い視点にマホさんのメガネがキラリと輝いた気がした。コトン、とコーヒーをテーブルの上に置いた須貝さんは黙り続けているマホさんに向かって更に言い放つ。
「ねぇ、そんなに俺ら頼りない?」
「うん?頼りがいがあるないの問題じゃないんだよ」
「…マホさん、少しぐらい教えてくれてもいいじゃん」
「本名とかね」
二対一なんて卑怯だろうか。だけどこうでもしないとマホさんには上手い具合に話をすり替えられちゃうから。僕たちに詰め寄られたマホさんは面倒くさいと口には出さなかったものの、顔を顰めてはぁ、と溜息を吐いた。
「どうして教えてもらう前提なんだい?知りたいなら自分たちで少しは調べたらどうなのよ」
この言葉だけを聞いたらなんて冷たい言い方なんだろうと思っただろうな。だけどこれは彼女なりの守り方だった。結果的に牽制することになってしまっただけで。僕たちだって半年以上関わってきたんだから、マホさんの言おうとしていることぐらい理解できるんだよ。
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通りすがり - 何度もコメントすみません。やっぱりこの小説好きです!いくらでも待つので、続きを期待してもいいですか? (3月15日 16時) (レス) @page34 id: c971cc1ca3 (このIDを非表示/違反報告)
凛(プロフ) - 作品の世界観が素敵で一話目からノンストップで読み続けてしまいました。続きがとても気になります。また、更新されることを願っております。 (2022年9月17日 23時) (レス) @page34 id: 766ff61372 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - トマトさん» ありがとうございます、、、!かなり更新ペースが遅いのですが、佳境に入ってまいりましたのでぜひ温かく読んでくださると嬉しいです!ありがとうございます!! (2022年6月20日 12時) (レス) id: 05ff2dafb9 (このIDを非表示/違反報告)
トマト(プロフ) - コメント失礼します!作品の雰囲気がめちゃくちゃに好きでずっと読んでいられました!もっと早くに出会いたかったです……一読者として応援しています (2022年6月14日 19時) (レス) @page33 id: 44a1cdd5e5 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - 通りすがりさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!返信遅くなってしまってすみません!相変わらずマイペースすぎる更新ですが何卒よろしくお願いしますー!!! (2022年3月1日 1時) (レス) @page28 id: 6736db345f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃるちゃる | 作者ホームページ:
作成日時:2021年11月18日 15時