長針と居合わせる青年【QK】4

#21 ページ22

次の日から形上でだが平穏な日々が戻ってきた。スマホの通知も普通の量で電池の減りも直ったし、郵便受けもほとんど空。

ドアを開けてみてもそこに待ち人はいない。そりゃそうだ。昨日で終わったんだもんな、一応。

一人で歩くこの道が当たり前だったはずなのに突然元に戻ると違和感を抱く自分がいた。まあそれでも子供じゃないから普通に歩くけど。

誰かの視線を感じることも無くなったし、もう自分が襲われることもないのだろうと身に染みて感じていた。


「よっ」
「……百合根さん」
「今日でお迎えは最後にするからさ、一緒に行こ〜」


角を曲がれば壁によりかかっている百合根さんがいた。多分俺の事を心配してくれたんだろう。本当にどこまでいっても彼女には勝てないと思った。


.



「ノブ少年にプレゼント〜」
「え、ありがとうございます！」
「ちょっと。何してんの？」
「んー？文字起こしを手伝ってやっただけ〜」
「もう…」


相も変わらず百合根さんはオフィスでの存在感は強く、勝手に動画の編集まで手伝っていた。そりゃ福良さんも呆れてため息がこぼれるだろう。


「あ、伊沢青年。はい」
「…ありがとう」


ノブにUSBを渡すのと同じように指輪が返された。これで、本当に終わったんだよな。俺の不安が顔に出ていたからなのか、すぐに百合根さんはふっと笑った。


「私はこれからも調査を続けるよ。あ、もしまだ不安が残るなら引き続きボディーガードをするけど〜？」
「それは大丈夫」
「あらそう。気を使わなくたっていいのに〜」


流石に疲労が溜まっているはずだ。本人は全然普段通りを演じているが見ていれば分かる。迷惑をかけてしまうのはどうやっても避けられないから、それならせめて少しでも軽くさせたい。


「まぁ、暫く家を空けるからミクの世話はまた頼んだよ」
「…わかった」


君はいつもどこを見ているんだ。時々目が合っているはずなのに視線が交わっていないように感じる時がある。



「……やっぱり、まだ持ってて」
「え？」
「全て終わったわけじゃないのにこれは受け取れない」
「うん、それもそうだな〜」



君が何を知っているのかこっちにはさっぱり分からない。いつか教えてくれる日が来るよな。ちゃんと、君の口から。



「……死ぬなよ、百合根さん」



指輪を持ったまま相変わらず焦点が合わない君を見つめながら俺は願いを吐いた。


第六章 他愛のない些事在り来り fin.

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