#18 ページ19
無事に収録も終わり、百合根さんと一緒にオフィスへの道を歩いていた。格好はもうかなり見慣れた男装で、手ぶらの彼女は手をひらひらと動かして遊んでいた。
なんかいつもより手を遊ばせているなあと思っていたら隣にミクがいないことに気づいて納得した。いくら利口とはいえリードは必要不可欠。つまり今日がイレギュラーだということ。
「マネージャーくん優しいよね。見学していいですよって言われたからお言葉に甘えちゃった」
「居たの知らなかった」
「そりゃ気配消せるからね」
「忍者か」
本当は俺の姿を確認したあと帰るつもりだったらしい。そう思うとマジで俺は申し訳ないことをしたなと痛感する。
「はぁ……」
「すごい気にするじゃん」
「そりゃあね。マジで反省してるから」
「なら二度としないように誓っとけばいいのさ」
軽く肩を叩かれて気づけば口角が上がっている自分がいた。それもそうだな。だけどちゃんとオフィスに着いたら直接謝ろう。
「ねえ、手大人しくできない?」
「え?邪魔?」
「別に邪魔じゃないけど視界に入るから気になる」
「それ邪魔ってことじゃん。酷い。悲しい」
「めんどくせぇ」
わざとらしく嘘泣きをする百合根さんにいつもの調子でツッコミを入れる俺。こんな何でもないやり取りが何気に一番楽しかったりする。
「ポケットに手を入れてたらなんかあった時すぐに動けないでしょ」
「……なるほど」
ふとした時に現実に戻されて重苦しい空気になってしまう。そうだ、今百合根さんと隣にいるのは俺を守るため。なんで忘れかけていたのだろう。意識が低いな、俺。
「ま、この服にポケットないっていうのが一番の理由だけど〜」
「俺の服勝手に着といてそれ言う?」
「え、バレてた?」
「見れば分かるわ」
「ごめんて洗濯し忘れたの〜!」
いつの間にかすぐに話が脱線し、楽しくなって盛り上がっていたせいで俺たちは気を抜いていた。
「うあぁぁぁぁ!!!」
叫び声が聞こえて振り向くと刃物を持った男がこっちに突進してきた。
「っ……!」
俺を庇うように前に出て戦う彼女。それをただ呆然としながら見つめている自分。何なんだよこれ。何が起きてるっていうんだよ。
「何している!さっさと行け!」
殺気迫る勢いで言い放たれて、思わず肩を震わせる。
「で、でも!」
「すぐに向かうから…っ!行け!!」
ガタイのいい男に一人立ち向かう彼女はやはり女性らしく華奢で。俺は涙目になりながらその場から走り去った。その間にも嫌な音は聞こえていて耳を塞ぎたくなって一生懸命走ってオフィスに向かった。
153人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
通りすがり - 何度もコメントすみません。やっぱりこの小説好きです!いくらでも待つので、続きを期待してもいいですか? (3月15日 16時) (レス) @page34 id: c971cc1ca3 (このIDを非表示/違反報告)
凛(プロフ) - 作品の世界観が素敵で一話目からノンストップで読み続けてしまいました。続きがとても気になります。また、更新されることを願っております。 (2022年9月17日 23時) (レス) @page34 id: 766ff61372 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - トマトさん» ありがとうございます、、、!かなり更新ペースが遅いのですが、佳境に入ってまいりましたのでぜひ温かく読んでくださると嬉しいです!ありがとうございます!! (2022年6月20日 12時) (レス) id: 05ff2dafb9 (このIDを非表示/違反報告)
トマト(プロフ) - コメント失礼します!作品の雰囲気がめちゃくちゃに好きでずっと読んでいられました!もっと早くに出会いたかったです……一読者として応援しています (2022年6月14日 19時) (レス) @page33 id: 44a1cdd5e5 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - 通りすがりさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!返信遅くなってしまってすみません!相変わらずマイペースすぎる更新ですが何卒よろしくお願いしますー!!! (2022年3月1日 1時) (レス) @page28 id: 6736db345f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちゃるちゃる | 作者ホームページ:
作成日時:2021年11月18日 15時