長針と居合わせる青年【QK】4

#12 ページ13

「あれ、なんでミクがいるの？」


俺がミクの頭を撫でていると山本が首を傾げてやってきた。それもそのはず、つい先程伊沢を連れて木田さんはオフィスを出て行ったから。


「今日はお留守番だとさ」
「じゃあ須貝さんが預かるの？」
「そう。木田さんに頼まれた」
「へえー」


それ以上は山本も聞いてこなかった。多分よく分かっていないだけだろう。俺も実際はあまり分かっていない。いきなり木田さんから「仕掛けるから留守番よろしく」と言われただけだし。

ただ、昨日から下準備を行っていたのは知っていた。突然一人でふらっとオフィスから出ていったなあと思って尋ねてみたら交番に行っていたと返ってきて無論驚いた。


どうやら木田さんは得意な芝居でストーカー被害にあっていると交番に駆け込んだらしい。

「いつも帰宅途中に絶対いるんです。怖いので明日、来てくれませんか」

カツラをとって清楚な女性を演じ、見事交番勤務の男を味方につけたと自慢げに話された。


「……お、こんな時間か」
「どこか行くの？」
「頼まれたら行かなきゃあかんやろ？」
「はは、そうだねぇ」


留守番とともに頼まれた役目を果たしにミクを連れて立ち上がる。にっこりと笑った山本に見送られて交番の近くへとやってきた。


俺が物陰に隠れながら様子を伺うと、ちょうど木田さんの罠に嵌ったらしい男が警察に拘束されそのまま交番へ連れられていた。


「この人です。いつも私のことをつけてきていたんです」
「え、いや、違う…！」


男が慌てるのもそのはずだ。木田さんのことはノーマークで狙いは伊沢。さらに彼女がボディーガードであることも知っていたのでこの豹変ぶりにも驚いている感じだった。


「…あの、二人で話をさせてください」
「でも危ないです」
「お願いです。その時はすぐにお巡りさんを呼びますので！」


流石に強引だろと思いながら見事二人きりの空間を勝ち取った木田さんのことをカメラに収めた。そして警察の死角に来たところで木田さんは青ざめた男を拘束した。


「貴方はどうして後をつけていたのか、教えてもらおうか？」
「ひ、ひぃ…！」


一応木田さんに言われて証拠映像を撮っているが、壁に押しやられて手首を拘束されて低い声で言う変わりぶりに俺も驚き慄く。当然目の当たりにされている男はお手上げのようだった。

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