第六章 他愛のない些事在り来り-izw ページ2
東京某所。午前九時半。
おはよう、と言ってオフィスのドアを開けてやってくる河村さんの姿を見ては、安心と共にあの人のことが頭にチラついて離れない。
あの人というのは、勿論俺がなるべく関わりたくないと思っているAさんのこと。福良さんには赤城さんと呼ばせ、山本にはマホさんと呼ばせているくせに本名はAという意味のわからない拘りを持つ謎の女性。
河村さんの一件は結局彼女が予想していた通りの展開で、先読みをした彼女が一本勝ち取り無事に解決。だから河村さんもこうやって普通にオフィスへと顔を出してくれるようになったんだけど。
この状況から分かるようにAさんの腕は確かだ。見る目もあるしただの変わった人というわけではないことは思い知らされた。
でも、俺の考えは変わらない。だからと言ってあの人と深く関わりたくない。俺は自分の直感を信じると決めたのだ。
「…どうした?伊沢」
「ん?あぁ、いや。またフォロワー減ってたからどうやって戻そうかなって考えてた」
「昨日も相変わらず呟いてたもんね」
俺の表情が少し硬かったのを河村さんに悟られてしまい、急いで適当な嘘を吐く。だが河村さんは特に気にする様子もなくふっと笑って山上の所に行った。その後ろ姿を見て思わず溜息が出た。
ここまで立て続けにやってきて、俺のところに来ないわけがない。
俺もそれは分かっているし他の人だって十分理解している。だから皆はすぐに俺のことを気にかけてくれる。一番色んな所に行くし、様々な人と関わっているのだからいつどこで何が起きるか分からない。
それでも俺はあの人にだけは頼りたくない。五分間隔で送られてくる未読メールを見つめながらまた一つ溜息を吐いた。
.
「────じゃあ、ここら辺をもう一回考え直すとして、」
「うん、そうだね」
「……ねえ、ちょっといい?」
淡々と進んでいった会議も終わりを迎え、パソコンを閉じたりそのまま周りを気にせずにメモを取り続けたり、皆それぞれ自由に行動し始めたところで俺は口を開いた。
手を止めて俺の話を聞いてくれる皆の視線を感じながら、スマホをテーブルに置いた。
「…………なにこれ。」
「一昨日から届くようになったんだよね」
一斉に俺のスマホを覗き込む皆に向かって呟き、その隙に鞄の中から別の物もテーブルに置く。
「……いよいよ、来たか」
河村さんは俺の置いた手紙を見つめながら小さな声で言った。
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通りすがり - 何度もコメントすみません。やっぱりこの小説好きです!いくらでも待つので、続きを期待してもいいですか? (3月15日 16時) (レス) @page34 id: c971cc1ca3 (このIDを非表示/違反報告)
凛(プロフ) - 作品の世界観が素敵で一話目からノンストップで読み続けてしまいました。続きがとても気になります。また、更新されることを願っております。 (2022年9月17日 23時) (レス) @page34 id: 766ff61372 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - トマトさん» ありがとうございます、、、!かなり更新ペースが遅いのですが、佳境に入ってまいりましたのでぜひ温かく読んでくださると嬉しいです!ありがとうございます!! (2022年6月20日 12時) (レス) id: 05ff2dafb9 (このIDを非表示/違反報告)
トマト(プロフ) - コメント失礼します!作品の雰囲気がめちゃくちゃに好きでずっと読んでいられました!もっと早くに出会いたかったです……一読者として応援しています (2022年6月14日 19時) (レス) @page33 id: 44a1cdd5e5 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - 通りすがりさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!返信遅くなってしまってすみません!相変わらずマイペースすぎる更新ですが何卒よろしくお願いしますー!!! (2022年3月1日 1時) (レス) @page28 id: 6736db345f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃるちゃる | 作者ホームページ:
作成日時:2021年11月18日 15時