行為で好意に気づけ【Q|K】

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「眠かったら寝ていいよ」
「そんな長時間なの？」
「いや、15分ぐらい」
「結構すぐじゃん」



　助手席に乗ってシートベルトに手をかけながら話す。連れ回すことに申し訳なさを感じているのか決まり文句のように毎度言う。
　だけど私が寝たことあった？航平とのドライブが楽しいんだから眠くならないよ。うるさすぎず、静かすぎずの丁度いい会話がとても居心地が良くて好きなの。

　にっこりと笑って私に膝掛けを渡して自分はハンドルを握った。この所作一つ一つを逃さないように瞬きもせず見つめる。間近で、隣で、これを見れるのは彼女の特権だ。



「この前福良さんと乾と3人で話してた時に教えてもらった場所なの。Aと来たいなって思ってたからさ、」



　微笑む航平と一瞬だけ目が合った。本当に嬉しそうな顔をしていて私まで頬が緩む。

　航平は忙しいしアイドルではないけれどスキャンダルは仕事柄やはり避けたいものだから表立ってデートは行けない。
　堂々と楽しめるデートはもっぱら夜。一日中デートじゃなくてもたった数時間の濃い思い出があればそれで十分だ。



「着いたよ」
「え……凄い綺麗」



　誰もいなかった。私と航平の二人だけ。目の前に広がるのは月明かりに照らされた桜。柔らかい風に揺られて動く桜たちは私たちのことを出迎えているようだった。

　くるりと振り返って隣にいる彼を見る。私が嬉しそうに見ている姿を満足そうに見つめていてなぜだか目頭が熱くなる。今日という日が一生終わらなければいいのに、と柄にもなく思ってしまう。



「Aと来れて良かった」
「私も、…」



　航平と来れて良かった。そう言おうと思ったのに言わせてくれなかった。優しく唇を重ねてくる航平に身を委ねて息をする。そしてどちらからともなく離れて目を合わせて笑った。


　時間を忘れて思う存分堪能して、そろそろ帰ろうかと航平が言い出して私は頷くと優しい声で名前を呼んだ。



「また来年も見に来ようね」
「何を？」
「夜桜。今の話聞いてなかったの？」



　私は笑いながらもこの言葉に勿論って返したのに、その“また”が来ることはもう無かった。


　分かってる。私たちが別れたのはこの日よりずっと後だったし仕方のないことだった。それでも春がやってくると思い出してしまうし1人でも見に来てしまうの。



───だからね、今は夜が嫌い。



　貴方との楽しかった思い出がもう増えることがないってことを身に染みて感じて泣きそうになる。

　ほら、今日も隣に貴方がいない夜桜が憎たらしいほど綺麗だ。

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