行為で好意に気づけ【Q|K】

今日は荒波-sgi ページ13

燃えだしたの続き


寒いからという理由で髪を下ろし続けた冬も超え、また徐々に暖かくなった春が訪れている。

ハロウィンという秋なんてかなり昔に思えてきてしまう。4ヶ月も経っていたらそういうもんか。人生初の赤色に染めたインナーだって跡形もなく落ちてそれ以来美容院など行っていないから当然元の黒髪になっている。


「Aさんおはよう」
「ん、おはよ〜…今日も須貝さんいないんだね」
「あー、忙しいって言ってたよ」
「なるほど」


時間は経っているというのに推しとの進展は驚くほどない。むしろこの4ヶ月で仲は遠ざかっているのでは？と思うほど会えてもいない。
こうして気軽に彼の名前を出したって普通の日常会話としか思われないのもどうかと思うよね。いやその方がいいんだけど、なんて言うか、まあそういうことよ。


3月。卒業という新たなスタートのための別れの時期。まさか、ね。
最近動画の方も出ている回数が少なくて、Twitterもあまり動いていないからもしかして辞めてしまうんじゃないか、というコメントを私は別界隈とはいえオタクをやっているから見つけてしまった。
今何しているんだろうなんて、こっちが知りたいわよ。一応同じ職場の人間なのにみんなと同じ情報しか入ってないんだって。
やっぱ、それはただの一社員だから知らされてないの？

「集中集中〜」

こういう思考回路に陥るとダメなループになっちゃうから一旦仕事に逃げてしまおう。パソコンを立ち上げてキーボードに手を置いた時、それでもふと悲しくなってしまうのはオタクの性であるから許してほしいな。


*


「ふぅ…」


1人の世界に入って集中するために好きな音楽を聴きながら仕事をしていたからイヤホンを取って凝り固まった肩を解すために伸びをする。やっぱ推しの歌って心が救われるな。

「うぇ、」

伸びをしたついでに数時間前と景色が変わったオフィスを見ていたら首を寝違えたように一定の方向で固まった。勿論寝違えてなどないし筋をやってしまって痛めているわけでもない。


「須貝さん新しいグローブ買ったの？すごっ」
「良いっしょ〜ガチガチに硬いから育て甲斐があるよマジで。あ、今度やろうよ草野球」


普通にいるじゃん須貝駿貴！忙しかったなんて嘘みたいに、いかにも今週毎日来てました〜かのように話盛り上がってるし。
来てたなら私にも挨拶ぐらいしてくれたっていいじゃん。どうせ私はただの一社員で一方的に推してるだけだけどさ！あまりにもファンサが塩対応で泣けますって。

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