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「彼奴は死んだって当然の人間だよ。Aにパワハラして追い詰めた癖に、いざ窮地に立ったら手のひら返し。今度はセクハラまでされたんでしょ?」
『うん……』
今でも思い出すだけで吐き気が襲ってくる。散々私をいいように使ってきたのは確かにアイツだ。自分が死ぬことも考えたぐらい。そんな時に助けてくれたのが航平だった。
私と違って頭がいい彼なら、どうにかしてくれるんじゃないかと思い、頼ったのだ。
「A、俺達でやろう」
『へ……』
航平は頼もしかった。私じゃ到底思いつかなかった方法で、やった。私たちは勝ったんだ。
でも、そこまでする必要はなかったんじゃないかと今更になって思うんだ。なんてもう後戻りなんて出来ないのに。
「──今のうちに最悪の事態になった時のことを話しとこうか」
『……っ』
家の周りが騒がしくなった。バイブ音が鳴る。そんな状況で航平は伏し目がちに呟いた。最悪の事態と言われて想像できないような馬鹿ではない。刻一刻とその時が迫ってきているのを身に感じていた。
「取調べは別々に行われるはず。だから、互いに黙秘をし続けるんだ。これは警察との戦いじゃない。己との戦いになる」
『うん、分かった』
ドラマで散々と見てきた取調べは、精神的に病んで結局本当のことを吐くシーンが多かった。でも、これは現実。絶対に黙秘を貫いてみせる。航平が言うんだ、そうするのが絶対いいんだ。
「きっと警察はこう持ちかけてくる。“自白すればすぐに出てこれる”って。でもそんな誘いに乗っちゃダメ。分かった?」
『勿論だよ、私、捕まったら何年だって刑務所にいる覚悟は出来てる』
それぐらいの決心をして私だって殺ったんだ。
「一緒に捕まって、一緒に黙り続けて、それで一緒に出てこよう」
『っ……うん』
ずっと堪えていたはずの涙が遂に溢れ出た。私の手を取って力強く言ってくれた航平の顔は滲んで見えなくなっていた。
誰かがインターホンを押したらしい。遂にその時はやってきたようだ。ドアの方へと向かっていく航平の背中を見つめながら涙を拭った。
ごめんね、航平。助けてくれてありがとう。でもね、こんな形で一緒になんてなりたくなかった。だって、大好きだから───。
カチャリと私の両手首に手錠が掛けられた。愛する人と共に、パトカーに乗った。意外にもちゃんと、車内には冷房が効いていた。
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ちゃるちゃる(プロフ) - わたぐもさん» わわ!ありがとうございます!!ギャップが大好きでして、そう言っていただけてとても嬉しいです!! (2020年9月10日 17時) (レス) id: 6736db345f (このIDを非表示/違反報告)
わたぐも(プロフ) - 新作のこうちゃんのお話どストライクすぎました…… (2020年9月10日 2時) (レス) id: 22632e30cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃるちゃる | 作成日時:2020年8月3日 16時