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「ひかる、ただいま」
伊野尾はそう言ってそいつの隣に腰を下ろす。
ちねんもいつの間にか俺の手を取ってはいなくて
ひかるの正面に座り込んで一緒に図鑑を眺めていた。
「いのちゃ、おかえりなさい」
彼はゆっくりとそう言って伊野尾に擦り寄る。
「おうおう、今日は植物図鑑見てたのか、
ひかるは読書家だなぁ」
図鑑で読書家は違うんじゃないか、とよぎったが
ひかるは嬉しそうにうんうんと頷くのでそれを飲み込んだ。
「薮、紹介するよ。こいつがひかる」
伊野尾の視線を追って俺に目を向けたそいつは
にっこりと微笑む。
「ひかる、この人は やぶ って言うんだ。
俺の友達。やぶ、だよ。」
伊野尾はゆっくりと俺の名前を繰り返した。
「やぶ、言ってごらん。やぶ」
「や、や…ぁぶ」
「そう！上手じゃん！」
伊野尾はひかるの肩を引き寄せて頬擦りをした。
まるで外国人がする挨拶みたいに。
「薮からも自己紹介してあげてよ」
そういって伊野尾は俺に手招きをする。
俺は伊野尾とは反対側のひかるの隣に
あぐらをかいて座った。
「はじめまして、俺はやぶこうた。
伊野尾とは席が近くて仲良くなったんだ。
ひかるも、伊野尾みたいに俺と友達になってよ」
伊野尾を真似てゆっくりと発音に気をつけて言ってみた。
どうだろうか、わかっただろうか。
「ともだち」
「薮はひかるとお友達になりたいんだって」
伊野尾は頭に入りやすくするようになのか
また繰り返してそう言った。
「ひかる、友達になってくれる？」
「ともだち…」
「そう！ともだち！」
「ともだちに、なる！うれしい」
ひかるはニコニコと笑った。
さっきと違うところは頬がほんのり紅色なことだろうか。
形のいい唇から覗いた八重歯が、とても愛らしい。
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作者名：くうちゃむ | 作成日時：2021年9月23日 19時
