蜜が36滴 ページ37
小さな背中がやけに頼もしい。
胡蝶は額に脂汗を浮かべながらも決死の思いで立ち上がった。
Aと戦闘中だった童魔はすぐさま胡蝶の元へと向かい、心配しているような素振りを見せた。
「君はもう助からないよ、意地を張らずに」
そんな童魔の言葉は届かない。
橋を折るほどに強く踏み込み、目にも止まらぬ速さで攻撃を入れる。
最後の突き。童魔の頸を貫通し、胡蝶の刀は天井に突き刺さった。
あれは最後の毒。1番強く苦しむ毒だ。
『蝶の呼吸 参ノ型 花蝶風月』
胡蝶の刀が頸から抜け落ちる瞬間、地面を蹴り童魔の頸を狙う。
刃は届いたものの、完全に切ることはできなかった。
入れ替わるように、自分が落ちていくと胡蝶は童魔の血鬼術によって引き上げられていた。
『しのぶ!!!!』
「大丈夫だって、ちゃあんと君のことも食べてあげるから」
ボタボタと胡蝶の血が隊服に染み込んでいく。
Aは血溜まりに膝をついた。
もうすでに胡蝶の体は童魔に取り込まれつつある。
救ったところで生きていられるか_______
「蝶の羽が散っていく、そんなのも風情だと思わない?」
『な、にを………ッ!!!』
「美しいねえ……彼女でこんなにも美しいんだ、美にこだわる君はもっと美しいに違いない」
欲に塗れた目がはっきりとAを写す。
ほとんど取り込まれてしまった胡蝶の時と同じように、蔓が固くAの体を縛り上げた。
何度刀で攻撃しても、次々伸びてきてしまってきりがない。
『離してくれッ、気色悪い、』
「まあまあ、そう言わないで。こうでもしないと君は逃げてしまうからね」
割れ物を扱うように優しく抱留められる。
その間も蔓は首の周りを緩く締めているわけだが。
"何を話そうかな?"なんて呑気に目の前の鬼は呟いていた。
「君、今まで喰ってきた蝶の呼吸の子達の中で1番匂いが強いよね?どれくらい鱗粉を摂取してるの?」
『残された分、全部だ』
「へえ、どうして?」
『……僕は、稀血じゃない、から』
過去に稀血の持ち主である不死川実弥の血を数日間に渡って自分に輸血したことがあるが、それでおびき寄せることは不可能だった。
ならば鱗粉で呼び寄せるのみ。探し求めていた上弦の弐に会うにはこうせねばならなかった。
童魔は悲しそうに頷き、Aの長い髪を撫でながら質問を続けた。
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作者名:諒 | 作成日時:2020年12月22日 19時