蜜が35滴 ページ36
『ヒューッ、ヒュー、』
「ぼうっとしてきた?苦しいかな?もう少しの辛抱だからね」
優しく頬を撫で、童魔はAに笑みを向ける。
思考が霞みがかっていても尚、Aは打開策を探していた。
強い、強すぎる。
男の自分がいたって、皆みたいに鍛えられていない体では到底敵わない。
あぁ、どうしたって美にこだわる蝶の呼吸じゃ太刀打ちできないじゃないか。
Aは、氷によって壁に貼り付けられていた。
首には氷が纏っていて、気道を圧迫している。酸素が脳に回らない。声が出せず、か細い息だけが漏れていた。
手首もパキパキと凍り、刀が振れない。
自分よりも年下の胡蝶でさえ満身創痍で頑張っているというのに、自分は一体何をしているんだ。
情けない、示しがつかない。
「Aさん!無事ですか!?」
『っは、ぁ、ごめ、』
胡蝶に持たせておいた特性の薬。それは融雪剤として働いた。
素早い突きのおかげでAはようやく氷の呪縛から解き放たれたのだった。
震える手で刀を握り、再び構える。
冷え切った体でどこまで動けるのだろう。
『蝶の呼吸 漆ノ型 薄雲渡り蝶』
「蟲の呼吸 蜻蛉の舞 複眼六角」
Aは細かい斬撃をいくつも、胡蝶は連撃で大量の毒を打ち込む。
童魔の体から血が出て数秒、胡蝶の体からも大量の血液が飛び散った。
「毒じゃなく頸を斬れたら良かったのにね。Aくんも、そんな体じゃ動きにくいだろう?今すぐ息を止めてあげるからね」
『ッが、ぁ』
ピキピキと喉の内側に氷が張る。今はまだ凍ってはいないが、気道が塞がるのも時間の問題だろう。
ならば、少しでも動いて無理やり熱を放出するのみ。胡蝶が動けない今、自分まで立ち止まってどうする。
冷たい体に鞭を打ち呼吸を整える。
頬がぴり、と僅かに傷んだ。
「動かないほうがいいんじゃない?辛いでしょう?あんまりご馳走に怪我は負わせたくないし……早く食べちゃおうかな」
『蝶の呼吸 肆ノ型 爛舞』
「えぇ、まだ動くの?……もう肺胞は壊死しているはずだろうに!」
『捌ノ型 胡蝶之夢』
「あははっ、本当に美しいねえ、一糸乱れぬとはまさに君のことを言うんだね」
耳を貸すな、止まるな、動き続けろ、少しでもしのぶの回復のために時間を稼げ。
そう頭の中で言い続け、Aは息を切らしながら童魔に挑み続けた。
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作者名:諒 | 作成日時:2020年12月22日 19時