【鬼滅】鱗粉ヲ纏フ緑蝶【男主】 (ページ34)

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蜜が33滴ページ34

睡蓮もしくは蓮の花が咲いている。
これは少し前に見た絵に似ているなと思いながらAは廊下を進んだ。偶然出会った胡蝶を連れて。

先程、産屋敷にて無惨の襲撃があった。
それにより当主は死亡。その際にここへと飛ばされたわけだ。

スンと胡蝶は鼻を鳴らす。生臭い血の匂いが鼻腔を抜けた。
2人、視線を交して戸に手をかける。そっと開けると、中には人を貪り食う一体の鬼がいた。

小さく声を漏らし、ぐるりとこちらへ顔を向ける。目には"上弦"と"弐"の文字。

「あれぇ、来たの？……わあ、女の子だね鱗粉のいい香りもする！」

口元にベッタリと血を貼り付け鬼は笑う。
"鳴女に感謝せねば"という意の独り言を漏らす。
胡蝶の額には薄く血管が浮いていた。

脳内を駆ける姉との記憶。
カナエが対峙したのは"頭から血をかぶったような鬼"。

特徴が当てはまるその鬼は、女の千切れた腕を持ったまま帽子を外した。

「やあやあ初めまして、俺の名前は童魔。いい夜だねぇ」

目を細めて笑う童魔に、Aも冷たい笑みを貼り付ける。
死体の山から1人の少女が手を伸ばす。顔面蒼白で、目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

「助けて、助けて……！」

「しー！今、話してるだろうに……」

困ったように人差し指を立てる。
刹那、細かい氷の粒が童魔を中心にして渦巻いた。
少しばかり離れた場所に胡蝶が着地する。

安否を確認する彼女から目を逸らし、Aは苦しそうに眉をひそめた。
途端、服が赤黒く染まっていく。胡蝶が抱きかかえていたはずの彼女は床に伏し、辺りに紅を散らした。

「信者の皆と幸せになるのが俺の務め。その子も残さず奇麗に喰べるよ」

両手にきらびやかな扇を持っている。
対の扇で攻撃をすると聞いた。

『皆の幸せ、ねえ………とてもそうは見えなかったけれど』

「この人は嫌がって助けを求めていた」

「だから救ってあげただろ？その子はもう苦しくないし、辛くもないし、怯えることもない」

目の前の鬼は、自分がしていることを正当化している。
Aはコツコツと踵を鳴らし、先程まで生きていた女の子隣にしゃがみこんだ。
絶望の色を滲ませた目にそっと手を乗せ、瞼を閉じさせる。
その間も、童魔は言葉を続けていた。

『……君の思想は理解し難い。ほら、彼女も怒っているよ』

ちらりと胡蝶の方を見ると、顔に嫌悪や憎悪の色が濃く滲み出ていた。