蜜が32滴 ページ33
「この頃薬品の減りが多くないですか?」
Aの部屋の棚を見て胡蝶はそう呟く。
均等に減っていたはずの薬品だが、1つだけ明らかに減っていた。
摂取した薬品は胡蝶に逐一連絡している。名前はもちろん知ってはいるが、なぜこんなにも摂取しているのかはわからなかった。
『少し、ね。今まで通りじゃだめだ』
「ですがいきなり変えるのはいかがと思います。飲み合わせもありますし…」
『大丈夫だよ、考えなしに飲んでいるわけじゃないから』
「じゃあその考えというのをぜひ聞かせていただきたいですね」
Aの顔を見てそう言えば、Aは引き出しから一冊の書を取り出した。
それは薄く、随分と昔のものであった。
ぺらぺらと捲り、該当の場所を開いて胡蝶に差し出した。
『どうやらその書によると、姉さんたちが相手をしてきた鬼は氷に関連した血鬼術を使うらしい』
「……ですが、確証はないのでしょう?」
『もちろん。けれど、賭けてみるのも悪くないと思わないかい?』
確かに、Aが言うことは間違っていない。
だが、先ほど言ったように確信がないのだ。毎日摂取している劇薬だって、体に影響がないわけではない。
息切れや頭痛、大量摂取は寿命を今以上に縮めることになる。
もちろんAもそういった覚悟があることは知っている。が、生きている手前寿命を縮めるようなことはしてほしくないのだ。
栗花落にはああ言ったが、自分だって他人のこととなれば口を出さずにはいられない。
『この薬品はきっと役に立つ。僕はそう信じてる』
薬瓶を軽く揺らす。瓶の中で液体がちゃぷん、と音を立てて揺れた。
『この薬品は他の薬品や毒に比べて融点が低い。できるだけ取り込むことができたら、血が凍り付くこともない。…匂いも味もなかなかだから嚥下するのもやっとだけどね』
Aは朗らかに笑う。笑顔の裏に見え隠れする感情。それは干渉を拒むものだった。
胡蝶も笑みを張り付け、ざわつく心に蓋をした。
『毒もそろそろ完成させたいね』
「徐々に完成に近付いていますし、もう少しの辛抱ですよ」
『それもそうだけれど…しのぶ、少しは寝なくちゃだめだよ』
ふわりと頭を撫でる。
温かかったはずの手はひどく冷えている。随分と昔のことを思い出し、切ない気持ちが胸を占めた。
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作者名:諒 | 作成日時:2020年12月22日 19時