蜜が30滴 ページ31
『髄分と早く終わったんだね。てっきり、もう少しかかると思っていたよ』
"おかえり"とAは栗花落に微笑む。
向こうもはにかみ、"ただいま戻りました"と伝えた。
自分は柱稽古の様子を見ることができていないため、栗花落の話は新鮮で面白かった。
長らく話せていない者も皆元気そうだ。
そして何より、この数カ月で自分の意思表示をする栗花落の成長が嬉しい。
ついこの前までは硬貨で全てを決めていたのに。
相槌を打ちつつ、質問をしつつ。
終始和やかな雰囲気で廊下を歩く。
2人はとある部屋の前でぴたりと足を止めた。
「師範、お戻りでしたか」
障子の横にそっと正座をする栗花落。細く白い指先は床へ付いている。
礼儀正しさにAはうんうんと頷いている。見守る視線は宛ら父親のようだ。
『カナヲちゃん、次は不死川君の所へ行くそうだよ』
「アゲハさんと師範の稽古は、岩柱様の後でよろしいですか?」
「私達は今回の柱稽古には参加できません」
ぴしゃりと胡蝶がそう言うと、場の雰囲気が凍った。
訳がわからず、栗花落はあたふたと慌てた様子。そんな彼女を中へと招いた。
数秒沈黙が続き、それを破ったのは意外にも栗花落であった。
「あの……あの、私もっと師範やアゲハさんと稽古したいです」
ぽぽぽ、と頬が赤く染まる。
そんな彼女の様子に、胡蝶とAは顔を見合わせて笑った。
私の継子が、僕の妹分が、こんなにも可愛らしいと。
『カナヲちゃん、素直になって愛らしくなったね。……そろそろ、頃合いだと思うよ、しのぶ』
「えぇ、私もそう思っていたところです。____私の姉、並びにアゲハさんのご家族を殺したその鬼の殺し方について、話しておきましょう。」
栗花落の目に、困惑と驚愕の色が滲む。
胡蝶はこの話をあまりしない。が、一方Aは定期的に栗花落に話をしていた。
過去の出来事を忘れぬよう、自身に言い聞かせるように。
先代のこと、母のこと、姉のこと、弟子のこと。
幾度となく話を聞いたが、それに飽きることはなかった。
『僕たちが上弦の弐と巡り合えたとして、そこには条件が存在する』
「条件、ですか……?」
緊張した面持ちで問う栗花落に、胡蝶は言葉を続ける。
「まず第一の条件として、私とアゲハさんは鬼に喰われて死ななければなりません」
しんと部屋が静まる。
胡蝶の横に座っているAの顔からも笑みは消えていた。
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作者名:諒 | 作成日時:2020年12月22日 19時