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蜜が29滴 ページ30

『…これ以上多く摂ったら支障をきたす…これくらいにしておこうか』




専用のグラスに薬品を注ぐ。本当ならもっと摂取したいところだが、実際問題そうはいかない。
少々の不満を嚙み締めつつもグラスに唇をつける。




同刻、竈門は厨に戻り、Aの部屋に急いでいた。
食事を一品忘れていたのだ。神崎に言われ、部屋まで速足。




「すみません、渡し忘れて___アゲハさんっ!!!」




竈門が襖を開けた途端広がるのは異様な光景。
止めようと急いで近寄るももう遅い。Aは液体を嚥下し、グラスを置いたのだった。



鼻を抜けたのは薬品独特の鼻を刺す匂い。
知識はないが、あんなものを口にしたら死んでしまう。



汗が額に点々と浮かぶも、Aはいつものように優しく笑った。




『どうかしたかな?』


「何で飲んだんですか!?吐かなくちゃ、」


『大丈夫だよ、こんなのどうってことないさ』


「でも、」


『竈門君』




はっとして以前言われたことを思い出す。
いかなる理由があろうとも食事中にAの部屋に入ってはいけない。
それを、一時の衝動で破ってしまった。



別の理由で再び冷や汗が浮かぶも、Aは笑って許してくれた。




『このことは誰にも言ってはいけないよ』


「…このこと、他の人は知っているんですか…?」


『しのぶとか宇髄君とかは知ってるよ。鬼殺隊じゃ数人かな』




自分で量を調節しながら人でいたときは心拍数等で宇随が気付き、しのぶは長い付き合いなため打ち明けてある。
両者ともに何か言うわけでもなく認めてくれた。
過干渉してこない二人はAにとって心地いものだった。


他の人を部屋に挙げると詮索されかねない。だから食事中は絶対に人を上げないようにしていた。
竈門は容易くそれを破ったわけだが。



それでも竈門はAの意思を尊重してくれるようだ。




『僕は長く生きていたいわけじゃない。けれど、不意に息絶えるのなんかはごめんだ。だから、死に時を自分で決めるんだよ』


「……怖くないんですか」


『はは、その質問は野暮だよ。……さぁ、もう戻りなさい。きっとアオイちゃんが探しているよ』




ぽんぽんと竈門の背中を押し、退室させる。
竈門も笑ってはいたが、やはり衝撃からか元気がないようだった。



あと何日ほどだろうか。あと何度眠れば、決戦の時が来るのだろうか。
そんなことを考えながら、Aは料理に箸をつけた。

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作者名: | 作成日時:2020年12月22日 19時

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