蜜が26滴 ページ27
『これほど大量の隊士と蝶の呼吸の柱を喰らったならば、上弦たちはさぞ怒り心頭だろうね』
鱗粉が血中に含まれている人間が美味いというのは鬼からすれば周知の事実。
その上、女の隊士を喰らえば手に入る力も大きい。度の鬼だって狙っている。それを独り占めするとなれば皆怒って内乱を起こすだろう。
それほど、蝶の呼吸の継承者というのは貴重なのだ。
『もう一度言おう。僕の身はくれてやる、彼女らを解放してくれ。』
「お前を喰らったのち、こいつらを食う!!異論は認めん!」
『おや…まさか、自分の力に自信がないのかい?』
嘲るように、Aは笑う。
ぴくり、と鬼の眉が動き、不快さを滲ませAを睨みつけた。
『人間よりも強い鬼様ならば、僕を仕留めた後に彼女らを喰らうなんてのは朝飯前だろう?その上、皆新人隊士。君はこんなにも実力差があって尚、君は無理だと嘆くのかい?』
わかりやすい挑発。それを鬼は引き受けたようだった。
叫びながらもこの条件を呑んだ。
刹那、薬瓶を投げつけ、液体が鬼の顔にかかる。
視界が治りきる前に隊士の救出を行った。
起きている隊士は何人かいたため、彼女らに指示を出し、速やかに山を下山させたのだった。
致死量に至らない薬品。痛みが伴い、その間身動きが取れなかった鬼。怒りでAにとびかかり、大きく口を開けた。
『っと、危ないなぁ。そんなすぐ食べられては逃がした意味がないじゃないか』
悠々と躱し、刀を鞘から引き抜く。
命の危機に面したというのに、当の本人は穏やかに笑っていた。
『蝶の呼吸 壱ノ型 蝶椿』
花が舞うように、不規則に太刀筋を描く。
急所は狙わない。時間を伸ばさなければいけない理由はもう1つあるから。
その後も何度も型を繰り出し、急所をわざと外した。鬼の命を弄ぶように、時間を惜しむように。
そろそろか、とAは刀を握りなおす。
浅く息を吸えば、鬼の叫び声が響いた。
『いやはや、いい実験台だったよ』
ぼろぼろと鬼の体が崩れ落ちていく。
Aは隊士の逃げる時間を稼ぐ他に、薬品の実験をしていたのだった。
殺めたとは思えないほど明るい笑みを浮かべるA。
液状化した鬼を指でなぞったり、いまだに感覚はあるのか試してみたり、完全に無くなるまでその場にとどまり続けた。
「アゲハさんっ、ご無事ですか!?」
地面に座って考え事をしていると、がさがさと音を立てて竈門が姿を現した。
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作者名:諒 | 作成日時:2020年12月22日 19時