蜜が25滴 ページ26
急いで屋敷の門を開ける。
いつもなら女人隊士たちの華やかな声が聞こえるというのに、恐ろしいくらいに静かだ。
『___いない、誰も』
隊士の名前を呼んでいくものの、返事がない。
全隊士の任務予定は把握している。今日はほとんどの隊士が休みなはず。なのに誰もいないなんておかしいに決まっている。
どの部屋にも人がいない。靴だってない。
『どこだ…最近の任務はここから近いところ…でもそこの鬼は討伐されたし、被害者はいなかったはず……』
「ぁ、ぁ、アゲハさ、」
『……凛?』
Aの前に姿を見せたのは、涙を流す隊士だった。年は竈門と同じくらいだ。
こらえていた声はだんだんと漏れ、大きな声で泣き出した。
落ち着くまで背中を摩れば、途切れながらも状況を話し始めた。
「日に日にみんながいなくなって、それで、怖くて、隠れてて」
『……皆の場所はわかるかい?』
「た、ぶん、東の方の__」
聞いたこともない名前の山。鴉に目配せをすると、鴉はこくんと頷いた。おそらく知っているのだろう。
こんな状況でここにいさせるのは危険だし、怖い思いをさせるのはよくない。
となると、どこかに預けなくてては。
『……わかった、すぐに行く。凜は蝶屋敷に行っていなさい、きっと守ってくれるから』
凜が屋敷から出て行ったのを確認して言われた山へと急ぐ。
頂上辺り、開けたところの木には蝶の呼吸の隊士が吊るされていた。
皆眠っているようだ。鬼は……少し細いが、弱くはなさそうだ。
何やら作業をしていた鬼はこちらに振り返ると、にんまりと笑った。
『やあ。僕の部下が世話になっているようで。…悪いんだけれど、苦情が入っているんだ、返してもらおうか』
「あんたぁ、こいつらの上司ってことは蝶の呼吸の柱ってことかぁ!ご足労様だ!」
『いかにも。さて…理由も知らずに殺めるのは道理に反する。彼女らを捕らえた理由を聞かせてもらおうか』
離れた岩に腰を掛け、話をするよう促す。
パンパンと手を叩いて、鬼は話始めた。
味がいいとされる蝶の呼吸の隊士を大量に捕らえ、食らうという魂胆らしい。
女性を食うのは力も付くから、ということだそうだ。無防備な隊士を捕らえるのはそう時間もかからない。
『なるほど……しかしなぁ、彼女らを拘束したことで皆困っているんだ。僕じゃダメだろうか?』
嬉しそうに笑う鬼。Aが自作の鱗粉を肌に塗布すると鬼は鼻をすんすんと動かした。
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作者名:諒 | 作成日時:2020年12月22日 19時