蜜が22滴 ページ23
『蝶の呼吸の使い手と一緒の任務になったことはある?』
「はい。ついこの前ですが…小柄な女性の隊士でした」
『そう。…供物って話をしたよね。僕らは危機に面した際、立場関係無く囮の役割を請け負わなくてはならない』
仲間が喰われそうになっていたならば、身を呈して守らねばならない。
例えそれがどんなに憎い隊士だったとしても。
戦術が立たないのならば、最前線に立って相手の技を一通り出させる。
攻撃をしてもらえないのなら自分で傷をつけて鮮度を落とす。
自己犠牲も厭わない人間である必要があった。
蝶の呼吸を会得することは、それ相応の度胸を持つことを意味する。
他の呼吸と違い、適性の有無が関係ないため、誰だって習得可能。
今でも軽い気持ちで会得する者は少なくない。そのため、哀れに羽を落としてしまう隊士が増えていくばかりだ。
「そんな…!随分昔の話なのに今も受け継がれているんですか…!?」
『あぁ。それで命が助かるのならば。』
「じゃあ、アゲハさんは……辛い道を、自ら選んだんですか」
『いや。僕は剣術に触れていない時から刺青があった、一族だからね。でも、男でこの呼吸は初めてだったらしい』
当時から不満を抱えていたわけじゃない。寧ろ、母や姉のようになれることを誇らしく思っていた。
理不尽なのは理解している。それでも今でさえ不満などない。
『嫌だったらきっと今頃自害しているだろうね。』
柱になって約6年。それでもここまで生きてきたのは、自分の意思があったから。
もちろん自己犠牲を否定する者は一定数いる。
鬼殺隊をまとめる産屋敷だってそのうちの1人だ。それでも、彼の意見を聞いても尚刺青がある者の意志は変えられない。
「俺に……何か、できることはありますか」
『え?』
「あ、いや、その……」
しまった、ぱっと出た言葉はあまりにも無責任すぎる。しかし今更取り下げるなんてことはできない。
辛かっただろうな、苦しかったんだろうな。
ただでさえ自分より長く生きているのに、生まれたときからこんなことが付き纏って。
嘘の匂いはしない。不満がないというのは事実。けれど、第三者から見ればその呪縛はあまりにも辛く思えてしまう。
このあとどう続ければ、と竈門は焦る。
沈黙を裂いたのは、楽しそうに笑うAの声だった。
予想外の出来事に、竈門は目を丸くした。
127人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:諒 | 作成日時:2020年12月22日 19時